「ますため」#気になる敬語

接客業などでは、お客さまに対し失礼のないように言葉を選ぶ結果、過剰敬語になりがちです。

 

今回気になったのも、そのような例です。

下記のような言葉遣いが、企業サイトのFAQ(よくあるお問い合わせ)や、メールで問い合わせた際の返信文に見られます。

 

a)「~により異なりますので、下記をご参照ください。」

b)「~により異なりますため、下記をご参照ください。」

 

「ので」も「ため」も理由を示しているので、意味はそれほど変わらないはずですが、b)はなんだか不自然ですね。

 

「~により異なるため、下記をご参照ください。」が自然な言い方です。要するに、「ため」の前に「ます」が付いていることが不自然なのです。

 

なぜ「ので」の前に「ます」が付くことは不自然ではないのに、「ため」の前に「ます」が付くと不自然なのかについて、今回は考えてみました。

 

【「ます」は文末につける】

「です」「ます」などの丁寧語は、文末につけるのが基本です。

 

それならば、a)の例文も不自然になるはずですが、なぜa)は不自然ではないのか。それは2つの文章に分けられるからです。

 

a’)「~により異なります。ので、下記をご参照ください。」

「ので」は接続助詞であり、接続助詞は、前後の文節をつなぐ働きがあります。

 

接続助詞は文頭には付かないので、文法的に正しいとは言えませんが、話し言葉であれば、使われることもあるでしょう。前半部分は独立した一文になり得、文末の場所に「ます」があるので違和感がないと思われます。

 

一方、b)の「ため」は理由を表す形式名詞であり、それ自体は内容を持ちません。

b’)「~により異なります。ため下記をご参照ください。」

「ため、下記をご参照ください。」という文章は不自然で、「そのため」と言葉を換えざるを得ません。「その」は「~により異なる」ことを指しており、結局「~により異なるため、下記を~」となってしまいます。つまりb)の例文は入れ子構造になっていて、2つの文章に分けることができません。

※形式名詞という専門用語が突然出てきましたので、例を挙げて説明します。

 

「時が過ぎる」の「時」は通常の名詞ですが、「テレビを見るときは明るくしましょう」の「とき」は形式名詞です。「テレビを見ますときは」とも通常言いませんし、「ときは、明るくしましょう」と形式名詞だけを取り出しても、意味がわかりません。「テレビを見るとき」のように、どんな「とき」なのか説明する言葉とセットで使われます。「“遊ぶこと”が好き」の「こと」や、「“お願いしたところ”快く受けてくださった」の「ところ」なども形式名詞です。

 

 

【原因の明確さと丁寧語の親和性】

 

似たような言葉でのニュアンスの違いをみてみましょう。

「せいで(おかげで)」>「ため」>「ので」>「て」

 

ⅰ)あなたが来なかったせいで(おかげで)、予定は延期になった。

ⅱ)あなたが来なかったため、予定は延期になった。

ⅲ)あなたが来なかったので、予定は延期になった。

ⅳ)あなたが来なく、予定は延期になった。

 

 

 ⅰからⅳに連れ、曖昧な言い方になっていきます。

 

「せいで(おかげで)」は、その結果に対して悪い(良い)と主観的に評価をしています。その分、原因が強調されます。

 

一方、「ため」は客観的な表記です。事実を事実として書いただけで、良い・悪いとも言わないけれど、原因をかばうようなニュアンスはありません。

 

「ので」になると、当然の結果として延期が受け入れられているというニュアンス(順接条件)に変わります。「当然そうなりますよね」というニュアンスは、共感的、もしくは肯定的な印象にもつながります。

 

「て」になると、単に時系列を述べただけとも解釈でき、前後の文脈を読まなくては、「あなたが来なかった」たことが原因なのかどうかも断定できません。

 

ⅰのように主観が入ったり、ⅳのように曖昧ではビジネスでは使いづらいでしょうから、ⅱかⅲを選ぶことが多くなるでしょう。

 

一般に「ため」は書き言葉で使い、「ので」は話し言葉で使うといわれます。(だからこそ企業が「ため」を使おうとするのでしょう。)しかし、それはⅱとⅲで確認したように、「ため」が客観的な、言い換えれば事務的な表記であるのに対し、「ので」のほうが共感的もしくは肯定的な印象になるからです。

事務的な言葉よりも、共感的(肯定的)な言葉のほうが、丁寧語(「ます」)が馴染みやすいということであれば、納得していただけるのではないでしょうか。

 

【どうしても「~ますため」を使いたい場合】

 

結論としては、下記の使い方がよいと思われます。

「~により異なりますので、下記をご参照ください。」

「~により異なるため、下記をご参照ください。」

 

それでも「~ますため」を使いたい場合には、これまでにご説明した2つの原因に照らして、以下の対策をお勧めします。

 

●「ます」を文末に据えるために「ため」は諦めて「そのため」に換える

「~により異なります。そのため、下記をご参照ください。」

  

以上、ご参考になりましたでしょうか。

また、気になる敬語がありましたら、お伝えしてまいります。