2時間目:接頭辞「お」「ご」

「お」「ご」のように言葉の頭に付ける言葉を「接頭辞」といいます。

「お」「ご」は基本的には何かを高めるときに付けます。そのほか、ものごとを美化して表現することもありますが、「お」「ご」自体にへりくだる(低める)意味はありません。

 

「お」「ご」がどのような言葉に付くのか、主なものを品詞ごとに見てみましょう。

¶名詞に付ける

a)名詞に付けて、その名詞が所属する対象を立てる

 

a-1)先生から“お手紙”を頂戴した / a-2)先生に“お手紙”を差し上げた

→両方とも、先生の手紙に「お」を付けることで、先生を立てています。

しかし、a-1)とa-2)で少し意味が異なりますね。

a-2)のように、「差し上げた」(先生のものになった)から「お」を付けるということであれば、a-1)で「頂戴した」(わたしのものになった)場合には、「お」が付けられなくなってしまいます。

 

 

a-1)については、先生から頂戴した手紙を、その人の一部のように尊ぶ気持ちが「お」に込もっています。おそらくこれは感覚的に理解しやすいのではないでしょうか。

a-2)は、大切な先生に差し上げる手紙だから、先生を尊ぶ気持ちを「お」に込めましたよ、という使い方です。

 

いわば、大切な人にあげるプレゼントに、美しい包装紙とリボンでラッピングをするようなものです。

 

このような立て方を『敬語の指針』にならって、<向かう先>を立てる」ということにしましょう。

 

 

 

 b)名詞化された行為の主体を立てる

 

動詞も、名詞化したうえで「お」「ご」を付ければ、行為の主体を立てることができます。

・名詞化とは……

 「遊ぶ」は動詞ですが、「いろんな”遊び”がありますね」の「遊び」は名詞です。これを動詞連用形の名詞化といいます。「お」「ご」を付けることで、通常は名詞化されないような動詞(開ける、切る、など)も名詞として扱うことができます。

 

(先生が)“お待ち”です / 先生が)”ご購入”の本

→先生の行為を名詞化し、接頭辞「お」「ご」を付けることで、主体である先生を立てています。もし立てたい対象が先生以外にいなければ、「先生が」と言わなくても先生の行為を指します。

 

【名詞化された行為の主体を立てる言い方の作り方】

 

次に、「名詞化された行為の主体を立てる言い方の作り方」を説明したいのですが、その前に、「名詞化された行為の主体を立てる言い方」では、覚えづらいので「お(ご)+名詞化動詞」としましょう。

 

それでは、改めまして……

「お(ご)+名詞化動詞」の作り方】

 

●元の動詞「待つ」-名詞化→「待ち」-接頭辞をプラス→「お待ち」

●元の動詞「購入する」-名詞化→「購入」-接頭辞をプラス→「ご購入」

☞上記の「購入する」の他、「勉強する」「検討する」など、漢語のあとに「する」が付いて出来た動詞を「スル動詞」と呼びます。この「スル動詞」は、「する」を取るだけで名詞化します。

 

名詞化されているので、基本的な使い方は名詞と同じです。

例えば名詞を使って「”駅”です」「”好物”のうなぎ」などという言い方と、「お待ちです」「ご購入の本」などという言い方では、使い方は変わりません。

 

しかし、「お(ご)+名詞化動詞」の特別な使い方もあります。

【「お(ご)+名詞化動詞」を使った特別な言い方】

 

ⅰ)動詞にする言い方「お(ご)+名詞化動詞+になる」

「ご購入の本はサイン付きです」というような場合は問題ありませんが、どこで購入したのかを訊きたい場合など、動詞として使いたいこともあるでしょう。

 

そのような場合、「お(ご)+名詞化動詞」を通常の動詞に戻したのでは敬意も消えてしまいますから、「お(ご)+名詞化動詞」を更に動詞に変えなければいけません。

 

その言い方が「お(ご)+名詞化動詞+になる」です。

①「お(ご)+名詞化動詞」が“お待ち”であれば、「になる」を付けて、

 「お待ちになる」

②「お(ご)+名詞化動詞」が”ご購入”であれば、「になる」を付けて、

 「ご購入になる」

 

①の例 「どのくらいお待ちになりましたか」

②の例 「この機会にご購入になりませんか」

 

ⅱ)可能表現「お(ご)+名詞化動詞+になれる」

「ご購入ができます」とは言えますが、「お待ちができます」では不自然です。

「お(ご)+名詞化動詞」を使った可能表現は、まず、ⅰを使って動詞にしてから、可能表現にします。

 

その言い方が「お(ご)+名詞化動詞+になれる」です。

①「お(ご)+名詞化動詞」が“お待ち”であれば、「になれる」を付けて、

 「お待ちになれる」

 

②「お(ご)+名詞化動詞」が”ご購入”であれば、「になる」を付けて、

 「ご購入になれる」

スル動詞の場合は、「ご購入が可能です」「ご購入ができます」という言い方も共に可能です。

 

①の例 「こちらでお待ちになれます」

②の例 「在庫がある今なら、すぐご購入になれます」

 

 

ⅲ)要望表現「お(ご)+名詞化動詞+ください」

「ください」は「くれ」の尊敬語です。また、「ください」の基本的な使い方は「動詞の連用形+て+ください」なので、「待ってください」「購入してください」でも敬意は表せます。

 

 

もう少し敬度を強めたい場合、ⅰ「お(ご)+名詞化動詞+になる」を使って「お待ちになってください」「ご購入になってください」という言い方になります。

 

ただし、文法的には「なる」の命令形は「なれ」(もっと大人になれ!など)ですが、ⅰの「お(ご)+名詞化動詞+になる」をそのまま使って「お待ちになれ」「ご購入になれ」とは言えません。

 

ここまでは通常の文法の話ですが、「お(ご)+名詞化動詞」を使った特別な言い方として、「お(ご)+名詞化動詞+ください」があります。

 

①「お(ご)+名詞化動詞」が“お待ち”であれば、「ください」を付けて、

 「お待ちください」

 

②「お(ご)+名詞化動詞」が”ご購入”であれば、「ください」を付けて、

 「ご購入ください」

 

①の例 「こちらでお待ちください

②の例 「ぜひ、ご購入ください

 

似たような形の言葉で「動詞の連用形+て+ほしい」という言い方があります。

「待ってほしい」「購入してほしい」というのが通常の言い方です。

こちらには、「お(ご)+名詞化動詞+ください」のような特別ルールはありません。

したがって、敬意を込めたい場合には、ⅰ)の「お(ご)+名詞化動詞+になる」を使って、「お待ちになってほしい」「ご購入になってほしい」というしかありません。このような場合は、後で説明するⅳ)を使います。

 

同様に動詞の連用形+て+くれ」の場合、「待ってくれ」「購入してくれ」が通常の言い方ですが、この場合は「お待ちになってくれ」「ご購入になってくれ」とも言えません。「くれ」には、先に説明したように「ください」という尊敬語があるので、「お(ご)+名詞化動詞」と組み合わせて使うのであれば、「ください」を選択するべきだからです。

 

ⅳ)要望表現「お(ご)+名詞化動詞+願う」

ⅲと同じ要望表現ですが、実は大きく違います。

違うのはもちろん、「お(ご)+名詞化動詞+●●」の「●●」部分ですが、ⅲは「名詞化動詞」の動作主体と、「●●」の動作主体が同じです。

(「こちらでお待ちください」の場合、「待つ」のも「くださる」のも同じ人)

 

一方、ここで挙げている「お(ご)+名詞化動詞+願う」の場合は、動作主体が変わります。

 

①「お(ご)+名詞化動詞」が“お待ち”であれば、「願う」を付けて、

 「お待ち願う」

 

②「お(ご)+名詞化動詞」が”ご購入”であれば、「願う」を付けて、

 「ご購入願う」

 

①の例 「もうしばらくお待ち願えませんか」

②の例 「ご購入願えればと存じます」

 

①の例であれば、「待つ」のは話しかけている相手であり、「願う」のは話し手です。

②の例でも同様に、「購入」するのは話しかけている相手であり、「願っ」ているのは話し手です。

(ⅲで補足説明に挙げた「お待ちになってほしい」「ご購入になってほしい」も動作主体が変わっています)

 

使う状況が似ているため、混乱しやすいところですので注意が必要です。

 

ⅴ)恩恵を受ける表現「お(ご)+名詞化動詞+いただく」

立てたい人の動作によって恩恵を受ける場合の表現なので、名詞化動詞の動作主体と、いただく(恩恵を受ける)人は異なります。

 

①「お(ご)+名詞化動詞」が“お待ち”であれば、「いただく」を付けて、

 「お待ちいただく」

 

②「お(ご)+名詞化動詞」が”ご購入”であれば、「いただく」を付けて、

 「ご購入いただく」

 

①の例 「社長、お客さまには応接間でお待ちいただいております」

 

②の例 「お客さまのようなかたにご購入いただければ、作り手冥利に尽きます」

 

 

 

ⅳやⅴのような動作主体が複数現れる言い方では、間違いやすくなります。

 

間違っていないか確認したいときの方法を、ご紹介しましょう。

 

もし話し手が自分自身であれば、「わたしが、某に~願う(いただく)」と言ってみておかしくない言い方であれば正解です。

たとえば、「わたしが、あなたに、お待ち願う」だったり、「わたしが、お客さまにお待ちいただいている」だったり。

 

ここでもう一つ練習です。

「父さん、そんなに歩いては、身体に悪いよ」と伝えたいときに、「お父さま、そんなにお歩きいただいては、お身体に障りますよ」という言い方が適切がどうか、確認してみましょう。

 

「わたしが、お父さまにお歩きいただく」

 

どうでしょうか。

おかしいですね。

 

この文脈では「わたし」がお願いして「お父さま」に歩いてもらっているわけでも、「お父さま」が歩くことで「わたし」が何らかの恩恵を受けている状況でもなさそうです。

 

かえって、いい加減にしておいたほうがいいですよと諭している状況で、「お父さま」が自分の意思で歩いていると思われます。

 

それであれば、ⅰの「お(ご)+名詞化動詞+になる」を使って、

「お父さま、そんなにお歩きになっては、お身体に障りますよ」と言うのが良さそうですね。

 

c)名詞そのものを高める

 

さま / お医者さま

→赤字部分を立てています。赤字部分、例えば「客」が「客であるというそれ自体が高められるべきことである」というときに使う方法です。

(「“お名前さま”を頂戴できますか?」というような言い方は「名前であるというそれ自体が高められるべきことである」という表現になり、話している相手よりも「名前」のほうを立てていることになってしまいます。明らかな誤用です。)

 

参考)美化語

“お弁当”、”ご飯”などは名詞に付きますが、これは所属する対象を立てているのではなく、単にものごとを美化している言い方です。誰かを立てることを想定していないので、誰にも見せない日記や、独り言でも使います。

 

¶動詞に付ける

動詞に付けて、その動作の<向かう先>を立てる

 

動詞に付ける場合は、その動作の<向かう先>を立てます。a-2)と同じような考え方です。

 

名詞に「お」「ご」を付けるときは、その名詞が所属する対象や行為の主体を立てる使い方もありますが、動詞に付ける場合は、その動作の<向かう先>を立てる使い方しかありません。

 

また、動詞に「お」「ご」を付けるときは「する」を必ずセットで付けなければなりません。

(「(先生を)お待つ」「(先生の荷物を)お持つ」とは言えません。)

 

先生を”お待ちする” / 先生にお茶を“お持ちし”ます

→両方とも、動作の<向かう先>は先生なので、先生を立てています。

(ちなみにこの場合の“待ち”や”持ち”は「b)名詞化された行為の主体を立てる」ときと同じ形ですが、こちらは動詞の連用形であり、名詞化はされていません。)

 

ここでは、 <向かう先>という概念をしっかりと理解することがポイントです。

 

「先生を“お待ちする”」の場合、目的語も「先生」で動作の<向かう先>も先生です。「先生を”お迎えする”」「先生を”お送りする”」なども同様です。

 

一方、「先生にお茶を”お持ちし”ます」の場合、目的語は「お茶」ですが、<向かう先>は「先生」です。「先生から本を”お借りし”た」「先生に本を”お返しする”」なども同様です。

 

もう少し例を挙げると「先生にボールを“お投げす”る」の場合、目的語は「ボール」ですが、<向かう先>は「先生」です。しかし「先生、壁にボールを”お投げする”ので見ていてくださいね」の<向かう先>は「先生」とは言えず、誤用です。もし壁に向かってボールを投げることが先生のためであったとしても、「お投げする」とは言えません。

 

これが言えてしまったら、「先生、弟にボールを”お投げする”ので見ていてくださいね」とも言えることになってしまいます。(この言い方では、立てているのは「弟」です。)

 

では、「わたしが“お立ちし”ますので、先生がお座りください」という例文を考えてみましょう。

「お+動詞の連用形+する」というルールは守られています。

では、<向かう先>は何でしょう。先生に席を譲るために立ち上がったので、向かう先は先生だと言えるでしょうか。

この場合も言えません。

「立つ」は目的語を持つことができない自動詞です。自動詞は<向かう先>を持てず、「お+動詞の連用形+する」の形にできません。

無理やり当てはめても、それは誤用にしか過ぎません。

 

さらに例を挙げてみましょう。

 

    「基本動詞」→「お+動詞の連用形+する」

(自動詞)「切れる」→「お切れする」(誤用)

(他動詞)「切る」→「お切りする」

 

(自動詞)「止まる」→「お止まりする」(誤用)

(他動詞)「止める」→「お止めする」

 

(自動詞)「治る」→「お治りする」(誤用)

(他動詞)「治す」→「お治しする」

 

参考)「お求めやすい」は、なぜ間違いか

店先で「お求めやすい価格になりました!」などのPOPを見かけることがありますが、これはよく言われるように誤用です。

「お書きやすいペン」「お読みやすい本」などを思い浮かべていただければ、同様に誤用だということがすぐわかると思いますが、なぜ間違いなのか、理屈を説明しておきましょう。

 

「~やすい」というのは動詞の連用形に付く接尾辞です。

したがって、上記「名詞に付ける」用法(b)名詞化された行為の主体を立てる)の「お求め」 ではあり得ないのです。

一方「動詞に付けて、その動作の<向かう先>を立てる」用法の「お求め」でもあり得ません。なぜなら、この場合「お~する」までをセットで使わなければいけないルールがあることと、「求める」という動作の<向かう先>を考えると「商品」になってしまうからです。「商品」を立てたいとは考えづらいですよね。

(「お求めしやすい」という言葉であれば文法上作れますが、これだと「商品」を立てることになってしまいます。一方「あなたのお母さまは、とてもお優しくて、お話ししやすい方ですね。」であれば「あなたのお母さま」を立てる正しい使い方です。)

きっとそのようなPOPを書いた人は「求める」主体である「お客さま」を立てたいはずです。

それであれば、「お求め」と名詞で止めず、「お求めに”なる”」と動詞を付けることで、「やすい」という接尾辞を「なる」という動詞の連用形に付けることができます。したがって、正しい言葉遣いは「お求めになりやすい」です。

¶形容詞・形容動詞に付ける

a)対象の性質や状態を表す形容詞・形容動詞に付けて、その対象を立てる

(あなたは)お美しいですね / (あなたは)おきれいですね

→美しい(形容詞)、きれいだ(形容動詞)と表現しているその対象(あなた)を立てています。

「お美しくていらっしゃいますね」「おきれいでいらっしゃいますね」という言い方もできます。(二重敬語ではありません。)

 

参考)

一部の副詞についても、同様の使い方ができます。

「“ごゆっくり”お過ごしください」

 

 

b)自分側の状態に付けて、<向かう先>を立てる

 

(わたしは)先生のことが”お懐かしい”

→わたしの、懐かしい、という感情が<向かう先>である先生を立てています。

 

c)事物の性質や状態に付けて、聞き手を立てる

 

本日は”お寒い”なか、お集まりいただき、ありがとうございます

→集まってくれた人たちを立てています。