敬語の効能-「適切な人間関係を表現する」とは

今回は、このサイト内「敬語の効能」の2)適切な人間関係を表現することができる について、もう少しお伝えしたいと思います。

 

「敬語の効能」の1)敬意を示すことができる については、ほとんどの方にすんなりと受け入れてもらえるであろう基本的な効能です。

 

例えば「おはようございます。今日はお暑いですね。」というような日常会話にも、しっかりと敬語は使われています。敬語なんてあまり意識したことがない、という人であっても、敬語を使うような必要性を感じたことがない、という人であっても、実際には敬語を使って話しています。日本語を話すうえで、敬語を全く使わずに一日を過ごすのは難しいほど、日本語にとって敬語は重要なものです。

※本当に今年の夏は暑いので、皆さんお体には注意してくださいね

 

この辺りのことは、「敬語の効能 1)適切な敬意を示すことができる」のほか、1時間目の「立てる」とは、の中でも記載しました。

 

一方「敬語の効能」の、2)適切な人間関係を表現することができる については、ピンと来ないかもしれません。

 

上記の、「おはようございます。今日はお暑いですね。」という挨拶には、“私はあなたに敬意を払っていますよ”という気持ちが込められているだけでなく、その背後には、例えば“良好なご近所付き合い”という枠組みが想定されているのです。そして、投げ掛けられた挨拶に対し、「本当にお暑いですね。いつまで続くんでしょう。」などと相手も敬語で返してくれたら、そこには“私もあなたに敬意を払っていますよ”という気持ちが汲み取れ、“良好なご近所付き合い”という枠組みがどちらか一方の思い込みではなかったということが確認されます。

 

つまり、敬語を正しく使い適切な人間関係を表現することによって、互いに認識している人間関係を擦り合わせていくことができるのです。言い換えれば、敬語は人間関係を見える化するツールなのです。

 

ビジネスにおいても、この人間関係の枠組みを正しく捉えて適切に表現することは結構大切です。

 

私は以前コールセンターに勤めていましたが、コールセンターにも、とても謙虚なお客さまからお問い合わせが入ることがありました。ご自身のことには謙譲語を使い、対応者には尊敬語を使って話してくださるような方です。そのような場合、対応者は、お客さまがそのような言葉遣いをする必要はないことを伝えなければなりません。もしくは、お客さまよりも敬度(敬語の度合い)の高い言葉遣いをしなければなりません。

 

もし、そのままお客さまであるべき人がへりくだり、サービスを提供する側が(そのお客様の態度と比較した場合に、わずかでも)尊大であり続けたならば、なにかしらの弊害が生じる恐れがあります。もちろん、何も問題なく、「なんて良いお客さまだったんだろう!」と感じて終わることのほうが多いかもしれません。しかし、お客さまからのお申し出の内容がより重要だったり、より複雑で長引くような案件だったりするに従い、その弊害が表面化する可能性も高まります。

 

なぜそのようなことが言えるのでしょうか。

 

サービスを受ける側は、本来へりくだる必要はありません。どのようなサービスが欲しいのか、要らないのかなど、その人の意思決定に必要な情報について、遠慮せず言ってもらわなければなりません。それに対し、サービスを提供する側は、要望されたサービスが提供できるのか提供できないのか、質問に正確に回答するだけであって、対応者の個人的な好き嫌いや気分、ましてや客を見て対応を変えるようなことがあってはなりません。この人(=客)は優しそうだから、きっとこんない案内でも許してくれるだろう、良さそうな人だから、これぐらいの説明で分かってくれるだろう、という気持ちは禁物なのです。

 

<この場合の枠組みの例>


サービスを受ける側(=客)

サービスを提供する側


自分の要望を伝える権利がある

 

 

わからないことは質問する権利がある

 

 

サービスを購入する権利がある

 

 

 

 

対価を支払う義務がある

 

 

 

 

 

 

 

 

 

客の要望を正しく理解しようと努める義務がある

 

できる限り、それぞれの客にわかるよう回答しようと努める義務がある

 

在庫切れ、求められているサービスと提供しているサービスが異なる、など、特別な条件のない限り、求められたサービスを提供する義務がある

 

正当な対価を請求する権利がある



それなのに、サービスを受ける側(=客)がへりくだり、サービスを提供する側がそれを受け入れてしまっては、上記の枠組みが崩れてしまいます。つまり、客は自分の要望をすべて伝えることができなくなっているかもしれません。サービスを提供する側は、わかりやすく回答する努力を怠り、求められているサービスと自社製品が異なることに気づかないまま製品を納入してしまうかもしれません。結果、客は支払うべき対価を認めないかもしれません。

 

クレームが起きると、「案内を間違えてしまったから」「あの客がクレーマーなんだ」などと、

 考えがちですが、そもそもなぜ案内を間違えてしまったのか、本当にどのような対応でもクレームに発展したのか、などを考えてみてください。もしかしたら、もっと謙虚になり、お客さまの言葉をもっと大切に聞いていれば、防げたクレームなのかもしれません。

 

万が一にもこのようなことが起こらないようにするためには、人間関係の枠組みを正常に保つことが重要であり、敬語はそのための大きな要素になり得るのです。

 

では、また。