敬語の乱れが溢れている昨今ですが、今回はトイレの中で見つけてしまいました。
今回は、この言葉遣いについて考えましょう。
まず、ポイントを明確にするために、「お忘れ物なさらないよう…」を終止形にして、今回のテーマに含まれない部分を省きます。
「お忘れ物なさる」
これが、今回、私が気になった敬語です。通常であれば、まぁ言いたいことはわかるので、それ以上気に留めることもないでしょうが、じっくり見れば、皆さんも、なにか変だな、とは感じるのではないでしょうか。
このサイト(2時間目:接頭辞「お」「ご」)では、「お」を名詞に付けることで、その名詞が所属する対象を立てることができるとお伝えしました。確かに「お忘れ物」という言い方であれば、その”忘れ物”が所属する対象を立てる正しい言い方です。
「お忘れ物」が正しいなら「お忘れ物なさる」も正しいと言えるかというと、残念ながら言えません。
2時間目では、「お(ご)+ 名詞化動詞 + になる」という、敬語の、言わば公式もお伝えしましたが、「お忘れ物なさる」が間違いで「お忘れ物になる」が正しい言い方だと言いたいわけでもありません。
このサイトでは名詞化動詞をもう一度動詞にするための方法として「お(ご)+ 名詞化動詞 + になる」を取り上げていますが、「お(ご)+ 名詞化動詞 + なさる」も正しい使い方として存在します。実は、いくつかの理由から、私は「お(ご)+ 名詞化動詞 + なさる」をお勧めしていないのですが、その理由の説明は別の機会にいたしましょう。
それでは、話を戻します。「忘れ物」に「お」が付く「お忘れ物」という言い方は問題なく、「お~なさる」という言い方も問題ない。そうすると、残るパートはひとつだけ、「名詞化動詞」かどうかという点です。
もうお気づきになった方も多いかと思いますが、「お忘れ物」は名詞化動詞ではなく、単なる名詞です。
「飲む」という動詞の連用形名詞化は「飲み」です。行為の主体を立てる言い方は、「お飲みになる」「お飲みなさる」です。間違っても「お飲み物になる」「お飲み物なさる」とは言いません。
それなのに「お忘れ物なさる」がまかり通ってしまうのはおかしなことです。
敬語は算数の公式と同じでルールがあります。
三角形の面積が「底辺×高さ÷2」であれば、想像を絶するほど大きい三角形であっても、今まで見たことがないようなピンクのラメで出来た三角形であっても、「底辺×高さ÷2」です。
「お飲み物なさる」がおかしければ、「お忘れ物なさる」もおかしいのです。
まずは、自分の中の違和感を大事にすることと、気になったらよく知っている別の言葉で試してみることをお勧めします。
それでは、また。