私が「お(ご)~なさる」を勧めない三つの理由ーーーその壱

前回、「お(ご)~なさる」という形を私はお勧めしていないとお伝えしましたので、今回は、何故お勧めできないのか、その理由をお伝えしてまいりましょう。

 

理由は三つあります。

1)現在の人間関係の在り方に合っていない

2)二重敬語や誤った敬語を増長しやすい

3)使う必要性がない

 

今回は一つ目について説明してまいります。

 

1)現在の人間関係の在り方に合っていない

「お(ご)~なさる」は皇室報道で「ご懐妊なさいました」などと使われるので、格調高い印象があります。しかし、「お(ご)~になる」よりも敬度が高いかというと、それほど違いは感じられません。また格調の高さは古めかしさとも通じます。「おいでになりました」という言い方よりも、「おいでなさいました」という言い方のほうが古めかしいと感じるのは、私だけではないのではないでしょうか。

 

ただし、古めかしいから現在の人間関係の在り方に合っていないという主張をしたいわけではありません。「お(ご)~なさる」は命令形が作れるという点が、問題なのです。「お(ご)~になる」は命令形を作れず、「お(ご)~になって”ください”」などと別の言葉を足さなければ依頼すらできません。それに対し、「お(ご)~なさる」は「お待ちなさい」「お座りなさい」などの命令ができます。

 

しかし、指示や命令は人の上に立つ行為であり、目上の人への敬意行動としては矛盾します。

 

目上の人に命令する状況を想像しようとすると、藩主の後継ぎと教育係というような、時代劇のような設定しか思い浮かべることができません。尊いお方だけれども指示・命令権は自分にある、という人間関係は、現代では想定することができないのです。

 

現代でもよく使われる言葉として、「おやすみなさい」「おかえりなさい」などがありますが、これらも、挨拶として使うだけで、とくに意味を考えることはないのではないでしょうか。しかしこれらの言葉も、当初は慣用句ではなく、純粋に人の気持を言葉にしたものだったはずです。「ゆっくり休めますように」「無事に帰って来れますように」という祈りのような気持ちが籠められていたのでしょうか。それすら分からない現代で、この言葉を使いこなすことはできません。

 

これらが、「現在の人間関係の在り方に合っていない」と考える理由です。

 

「お(ご)~なさる」を使った言葉遣いのうち、よく使われる必要なものだけは残り、その他は既に使われなくなってきているのです。

 

では、また。