さて、今回は、「お(ご)~なさる」という形を私が勧めない理由の3つ目「使う必要性がない」です。
その壱でも触れたように、「お(ご)~なさる」は、「お(ご)~になる」と敬度も使用範囲も、ほぼ重なります。「お書きなさる」は「お書きになる」と言い換えられますし、「ご確認なさる」も「ご確認になる」で問題ありません。一方、「運転する」「テストする」のように「お(ご)~になる」の形にできないものは「お(ご)~なさる」の形にもできません。
では、「お(ご)~になる」の形にも「お(ご)~なさる」の形にもできない、「運転する」「テストする」を尊敬語にしたい場合はどのように言えばよいかというと「する」を特定形の「なさる」にして、(「お」や「ご」をつけず)「運転なさる」「テストなさる」と言います。
※特定形:「する」を「なさる」、「食べる」を「召し上がる」というように変化の規則性がないもの
そして、特定形があるものは特定形を使うことが第一選択肢となりますが、そうでなければまずは「お(ご)~になる」を基本の型とするのが良いと考えます。
なお、「お(ご)~になる」では敬度が高すぎて使いづらい、受け身や可能の意味と勘違いして受け止められたとしても致命的な失敗になってしまうような改まった場ではない、というような場合であれば、受け身形(「書かれる」「運転される」など)を使ってもよいでしょう。
「運転する」「検討する」のような動詞を「スル動詞」と言いますが、「お(ご)~になる」にできたりできなかったりする「スル動詞」は一律で「~なさる」を使うと決めてしまえば、「お(ご)~になる」が使えるかどうかで迷う必要がなくなります。
また、「お(ご)~なさる」をそもそも使わなければ、「お(ご)~になる」を使うか「お(ご)~なさる」を使うかで迷う必要もなくなります。
更に「お(ご)~なさる」を使うか「~なさる」を使うかで迷う必要もなくなります。
このように、「お(ご)~なさる」を選択肢から除くだけで、敬語がかなりシンプルに使えるようになります。
敬語選択の優先順位から、以上をまとめておきます。
①特定形のあるものは特定形を使う
②「お(ご)~になる」を尊敬語の基本として考える
③「お(ご)~になる」が使えない動詞は、「~なさる」を使う
④正確な表現を求められないような、あまり改まった場でない場合に限り、受け身形の尊敬語を使う
私が「お(ご)~なさる」を勧めない理由は、理解していただけたでしょうか。
では、また。
※2018/07/07にご紹介した、菊地康人先生の『敬語再入門』もご参照ください。
「スマートな尊敬語づかい」として、以下の「二つ覚え」を提案していらっしゃいます。
①「-する」型の動詞(サ変動詞)の場合:機械的に「する→なさる」と変える
②その他の動詞の場合:「お~になる」にする(ただし、いくつかの制約がある)