「お求めやすい価格になりました」
店頭でも、ネットショップでもよく目にしますが、どうにも気になる言葉です。
まず、文法的に間違っています。
■”やすい”は動詞の連用形に付いて形容詞を作る接尾語
どういうことかというと、”やすい”の前にあるからには動詞でなければならないのですが、”お求め”は名詞です。
(名詞だから「こちらをお求めですか。」と体言に付く”です”が続けられます。)動詞にするためには、”お求めになる”としなければならないので、”お求めになりやすい”が正しい使い方、というわけです。
■“お求めやすい”は“求めやすい”という形容詞に“お”を付けたのだから間違いではないという主張はどうでしょう。複合語・派生語は、基本的に「お」が付けられませんので、これも間違いです。
そして、文法的な問題よりも気になるのは、敬意に反していることです。
「便利な個包装」という宣伝文句であれば、商品の利点をアピールしているにすぎませんが、わざわざ敬語を使って「お求めやすい」というのは、客にとって求めやすいと言っているわけです。
「お求めやすい」という言葉を検索すると、何かの商品よりも、この言葉がおかしな日本語であることの説明ばかりが検索結果に現れます。それでもこの言葉が使われ続けるのは「あなたにとって求めやすい」というアピールが売る側にとって重要だからでしょう。しかしながら、それは一人一人の客が判断することであって、売る側が勝手に決めつけるようなことではありません。売る側が言えるのは、「勉強しました」「お安くしました」ということであって、客に代わって判断することではないはずです。
相手を勝手に決めつけることは、相手を尊重する行為とは真逆です。敬意とは真逆の言葉が敬語として使われているということが、この言葉の一番気になる点です。
敬意を忘れ自分の行為が失礼なことに気づかなくなってしまったら、また、敬意の伴わない敬語を使われても気付かなくなってしまったら、敬語の存在価値そのものが失われかねません。
敬語を使う側も、使われる側も、相手を尊重する敬語の目的を大切にしていきたいものです。
それでは、また。