■改まった場面では使えない「んです」
「これ、とってもおいしいんですよ」
日常の何気ない会話にはよく使われる言葉です。
しかし、これが責任ある地位の人の発言だったり、取引先で重要な問題を話しているときにこのような言葉遣いをされたりすると、ちょっとがっかりしてしまいます。
記者会見を想像してみてください。組織的隠ぺい行為を疑われた企業の社長が、調査結果を報告するときに「調査したんですが、そんなのはなかったんです。」と言ったら、その行為があるかないかよりも前に、社長の知性や能力が疑われてしまいかねません。
■「ん」がつくのは、本来「です」が接続できない証拠
「です」の前に「ん」がつくのは、本来「です」が接続できない言葉だから。文法の知識なんてなくても、「ん」がないとなんとなく収まりが悪くて、誰でも自然につけてしまいます。
「ん」は「の」のくだけた言い方です。
口語であれば、「赤は在庫がないんです。白ならあるんですけど」のように「んです」という言葉を使う場面も多いことでしょう。
しかし、これをかしこまった場面や書き言葉で使うのは見苦しいものです。
そして、「赤は在庫がない”の”です。白ならある”の”ですけど」と、単純に「ん」を「の」に変えてもかしこまった言葉遣いにならないのは、ご覧のとおりです。
必要に応じて「赤は在庫がございませんが、白でしたらございます」などと言い換えができるのが大人というものでしょう。
■「っす」もサボリ敬語か
本来「です」が接続できないのに、「ん」を付けて誤魔化すのが「サボリ敬語」なら、「っす」「んす」は更に格上の「サボリ敬語」に該当しますが、ここまで行くと使用範囲が変わります。
これらを使って「おいしいっす」「行くんす」のように言うと、「です」と「ます」の区別も曖昧になってきます。「え、いまから行くんすか」と言えば「行”き”ます」という動詞の活用すら不要になります。
一般的な会社では、「サボリ」で許される範囲か微妙なところではないでしょうか。
「っす」という言葉は、言葉についての正確な知識も訓練も求められていないが、聞き手尊敬だけは確実に求められる社会で使われる言葉なのかもしれません。
■「の」は言葉につけるカギ括弧
「これ、とってもおいしいんですよ」を「こちらは、とってもおいしいのです。」と変えても自然な敬語にはならないことは既に述べたとおりです。
では「の」を使ってはいけないのかというと、そんなことはありません。
れっきとした言葉の一つである以上、然るべき使い途があります。
「の」は言葉につけるカギ括弧のようなものです。(準体助詞と言います)
したがって、「のです」は、
「このようにわが社のサイトが炎上する起こる危険性は、非常に大きいのです!」
のように、結論など強調したい文にのみ使うのがスマートです。
プレゼンなどで使う場合は、1枚のスライドを説明している間に2度も3度も「のです」を使うことのないよう、強調したい点は予め絞り込んでおきましょう。
「んです」と「のです」は、使う場面も使い方も、全く異なるのです。
それでは、また。