■「ご~なさる」は正しい敬語か
受講生の方からの質問です。
文化庁のサイトに掲載されている「敬語の指針」では「ご~なさる」の形を注釈付きですが認めています。該当部分を抜粋します。
ご……なさる(例:利用する→御利用なさる)
(注) 「ご……なさる」の形は,サ変動詞( ……する」の形をした動詞)について
のみ 「する」を 、「なさる」に代えるとともに「ご」を付けて作ることが
できる。ただし 「ご」がなじまない語 , については 作ることができない
※URLも記載しますので、敬語に興味をお持ちの方は一度全文確認することをお勧めします
http://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/kokugo/hokoku/pdf/keigo_tosin.pdf
したがって、正しいか正しくないかと言えば正しい敬語です。
しかし、私の講座では積極的に教えてはいません。
その理由を今回説明したいと思います。
■「ご~なさる」を勧めない理由
①誤った敬語との境目が曖昧になる
上記の「敬語の指針」に載っている「御利用なさる」という例を使って説明しましょう。
「利用なさる」という、これだけで正しい敬語に「御」をプラスしているにも関わらず二重敬語とされないならば、「利用される」という正しい敬語に「御」をプラスした「御利用される」を間違いとする根拠と矛盾する。
説明の仕方を変えてもう一度書きます。
「御利用する」という謙譲語(受け手尊敬)の言葉の「する」だけを「なさる」に変えた言葉が尊敬語(主体尊敬)とされるのであれば、同じく「する」だけを「される」に変えた言葉(御利用される)を間違いとする根拠と矛盾する。
「ご~なさる」「ご~される」は前者が正しく、後者が誤用とされるながらも、構造的にはほぼ同じです。「ご~される」を使わないためには、「ご~なさる」も使わないほうが、考え方がシンプルです。
②「ご~なさる」を使う必要がない
「ご~なさる」を使わなくても、「お(ご)~になる」という言い方があります。
それでなくても身につけるのが難しく多くの人が困っている状況からしても、敬語の種類を増やして更に難解にするのではなく、必要な言葉だけを身につけるようにしたいと考えたとき、付加形の尊敬語(主体尊敬)は「お(ご)~になる」の1つだけで十分です。
③命令できる「ご~なさる」は現代には馴染まない
「ごめんなさい」などは、「ご~なさる」が昔使われていたことを示す例なのでしょう。
これは同時に、「ごめんなさい」以外にも「お待ちなさい」「お食べなさい」などと命令形が作れ、命令をするとき、実際に使われていたことを示しています。しかし現代の私たちにとっては、親が自分の子どもに命令しているときの言葉に思えるのではないでしょうか。到底ビジネスで使える言葉とは思えません。先に引用した「敬語の指針」では「サ変動詞に限り」とされていますが、「御利用なさい」にしても、立てるべき人に対し命令をするのは、現代では違和感があります。
もちろん、「お(ご)~になる」の形でも「御利用になれ」と命令形は作れます。
しかし、それはあくまでも文法上の話であって、冗談ならあり得るかもしれませんが、立てるべき人に命令をするという意味で実際に使うことはないでしょう。私自身、使ったことはありませんし、使っているのを見聞きしたこともありません。
昔の人間関係と現代の人間関係の違いなのかもしれませんが、「ご~なさる」は現代には馴染まないと思われます。
それでは、また。