パワーハラスメントと敬語①

今回は「パワーハラスメントと敬語」というテーマで考えてみます。

 

■パワーハラスメントの定義

厚生労働省のサイトでは、パワーハラスメント(以下パワハラ)を下記のように定義しています。

 

「同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為」

https://www.no-pawahara.mhlw.go.jp/

 

■昔、パワハラはなかったのか

高度経済成長期やバブル期にパワハラという言葉はありませんでした。

 

女性社員がお茶くみをさせられたり、部下がタバコを買いに行かされるのは、今や業務に関係ないことの指示であり職権乱用と誰もが思うでしょうが、当時はよく聞く話でした。他にもタバコどころか上司の服を買いに行かされたという話や、酒の席で部下は上司の歌う曲を全て覚えていてひたすらカラオケを入れ続け、上司だけが歌っているという話もありました。

テレビドラマでも、ミスのある報告書を上司が「なんだこれは!」と怒鳴って叩きつけるシーンが思い浮かびますが、実際に上司が部下を怒鳴りつけるなどということは様々な企業で行われていたはずです。

 

なぜそのようなことがあっても今のように問題にならなかったのかと言えば、上下関係が明確で強固だったから、というのが大方の考えではないでしょうか。

起業する、転職するという選択肢が今よりも少なかった時代、転職したくてもできる保証がなく、もしできたとしても給与が半減するとしたら、家族を支えるお父さんは耐えるほうを選ぶでしょう。

 

終身雇用制で、まっとうに働いていれば社宅に住めたり一戸建てが持てたり、老後の年金まで保証される時代、家族のため日本の成長のために世のお父さん方は一生懸命頑張っていました。年功序列があるので、全員が出世できるとは言わないまでも、順当に給与は上がっていきます。耐えるべきことも多かったでしょうが、着実に与えられるものもがあったのです。

 

更に、高度経済成長期よりも少し遡れば、日本は戦争をしていました。

極度の緊張の中で軍隊式のしごきに耐えてきた日本人が、戦争が終わり時代が変わったからと言ってすぐに心の傷が癒え、コミュニケーションの取り方が変えられるとは思えません。私は戦争を知らない世代ですが、戦争の影響は確実にあると思います。

 

■パワハラという問題意識が生まれた背景

ウィキペディアを見ると、「パワーハラスメント」という言葉は2001年にできたようです。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%91%E3%83%AF%E3%83%BC%E3%83%8F%E3%83%A9%E3%82%B9%E3%83%A1%E3%83%B3%E3%83%88

 

2001年より前から継続的に同じことは行われていたにも関わらず、2000年代に入ってからパワハラという言葉が生まれ問題視されるようになったのは何故でしょうか。

 

もちろん、国際的な流れもあるでしょうが、日本内部でのきっかけとしてはバブル崩壊から非正規雇用への流れが挙げられます。非正規雇用への流れとは、言い換えれば終身雇用制の崩壊です。

 

バブル崩壊は1991年から始まりました。1997年に開かれた山一証券の記者会見での「私らが悪いんであって、社員は悪くありませんから」という社長の発言は、バブルがテレビで取り上げられるたびに放映されているので、見たことがあるという方もいらっしゃると思います。

 

一方で労働者派遣法は1986年より制定されたもので、本来は、法律の裏付けもなく労働者に対する何の保障もない労働者供給事業から労働者を守る目的だったはずのものです。しかし、バブル崩壊とともに非正規雇用への企業のニーズは高まり、1996年には対象業務が26業務に拡大され、1999年には対象業務が原則自由化されるなど、規制緩和が進みました。

 

本年の2月15日に総務省から発表された2018年の労働力調査を見ると、雇用者5596万人のうち、非正規の職員・従業員は2120万人です。

https://www.stat.go.jp/data/roudou/sokuhou/nen/dt/pdf/index1.pdf

 

2018年現在、実に38%近くが非正規雇用なのです。

 

今では、嫌々非正規に甘んじている人たちだけでなく、積極的に非正規という働き方を選ぶ人も多くいます。先の労働力調査を見ても、非正規雇用に就いた理由として、「自分の都合のよい時間に働きたいから」というポジティブな回答のほうが「正規の職員・従業員の仕事がないから」というネガティブな回答よりも多いのです。

 

■雇用する側と雇用される側、上司と部下の関係性が変わってきている

このような人たちから見れば、企業は一生面倒を見てくれる絶対上位者ではありません。そっちも都合のいいときだけ雇うし、こっちも都合のいいときだけ働くという対等の関係です。

 

100円ショップやファストファッション、激安ショップや個人間売買などの台頭により、快適な暮らしを維持するだけならそれほどお金を必要としなくなりました。

1着何十万もするスーツや、高級料亭、郊外の一戸建てなどは、誰もが憧れるものではありません。単に個人の趣向の問題であり、一生懸命働いてお金を稼ぐのも自由なら、自分のライフスタイルに合わせてストレスの少ない働き方を選ぶのも自由になったのです。

(お金や消費に対する価値観が変わったのに、相も変わらずインフレターゲットのために利率を操作している日本銀行を見ると、なんだかなぁ~と思います……。)

 

このような人たちがパワハラを受けたときに耐えるモチベーションは、終身雇用制の中で家族や住宅ローンをいわば人質に取られ、一方で愛社精神に燃え、経済成長を夢見た正社員の持つモチベーションと比べたら、ほんのわずかなものと言えるでしょう。

 

■敬語でコミュニケーションの交通整理を

働くことの意味が変わってきた時代の流れの中で、上司と部下の関係性も変わればコミュニケーションも変わって然るべきです。

更に、学生時代に先輩後輩との付き合いがなかった場合は上下関係をよく知らないまま大人になる可能性もあります。一方で会社の在り方も多様化して、上司と部下の役割も、常識があれば分かるとは言い切れません。

 

会社の信条や方針を定めたクレドを作成する企業が増えています。クレドがあることで、一人一人が会社同じものを目指して行動することができます。

一方、敬語はコミュニケーションを交通整理するビジネスツールです。単なるマナーとしての敬語ではなく、自社に合った敬語をカスタマイズして導入しなければいけない時代になったのではないかと思います。

 

ちょっと長くなりました。

今回はここまでとします。

 

では、また。