都内に素敵なブックカフェがあるというので、行ってみました。
評判どおり、おしゃれで雰囲気の良い場所でしたが、ここでも敬語が気になってしまいました。
たった1枚のポスター、たった2文ではありますが、気になった敬語はは3つありました。
①お読みになられる
②ご購入されない
③お戻し頂けます
順に見ていきましょう。
①【お読みになられる】
読むという動作をする人を立てたいのであれば「お読みになる」が正しい敬語です。「お読みになられる」は二重敬語で、間違いです。
※これが、文字どおりの意味を表していると解釈するなら、誰かに立てたい人が「読まれる」状況を表していることになります。
『ジョジョの奇妙な冒険』という漫画に、岸辺露伴という漫画家が出てきます。彼は人の記憶を本のように読むことができます。このような世界であれば、「あなたは岸辺露伴にお読みになられたんですね」という敬語が曲がりなりにも成立します。
②【ご購入される】
「ご購入されない」は「ご購入される」の否定形ですので、「ご購入される」について考えていきます。
「購入される」であれば正しいのですが、「ご」を付けて「ご購入される」にするのはいけません。
「お(ご)~される」という敬語の形はありませんので、「ご購入する」の「する」という部分を受身形に変えて尊敬の意を表そうとした文かと思われます。しかし「ご購入する」では購入する人ではなく、店側を立てる表現になってしまいます。
よって、これも間違いです。
※これが文字どおりの意味を表しているとして解釈するなら「あなたよりも購入する先である店のほうが当然偉いわけだが、あなたにも敬意を払っておこう」というようなニュアンスになります。
※「ご購入された」については2018/05/20にも取り上げていますので、よろしければご覧ください。
③【お戻し頂けます】
「お戻し頂けます」から敬語を取り払うと「(私は)戻してもらうことができます」となります。何の宣言だかよく分かりませんね。
「元あった位置に書籍・雑誌をお戻し頂けます様ご協力をお願い致します」という文章全体から見ても、やはりよく分かません。
別の文章に置き換えて考えてみましょう。プロジェクトリーダーに抜擢してもらえるよう、同僚の協力が欲しいというケースを想定します。その場合「(私が上司から)プロジェクトリーダーに抜擢していただけるよう、(同僚の皆さん、)ご協力をお願いいたします」
文の構図はポスターと同じですが、この場合、抜擢するのは上司で、協力するのは同僚です。
一方、ポスターに書かれている文章では「戻す」のは客で、「協力」するのも客です。(私が利用客に)書籍・雑誌を戻してもらうことができるよう、(利用客の皆さんに)協力をお願いするというのは、おかしくないでしょうか。
上記の例で言えば、プロジェクトリーダーに抜擢する権限のある上司に対して直接協力をお願いしているのと同じです。文章にすれば、「山田部長、私があなたからプロジェクトリーダーに抜擢してもらえるよう、ご協力をお願いします」と言っているのと同じです。
文意を適切な敬語で表すなら、例えば以下のような文章が考えられます。
「元あった位置に書籍・雑誌をお戻しください。快適な空間の維持にご協力をお願いします。」
ちなみに、ポスターに書かれている「お持ち込み」という言葉は動作主の行為を立てているので適切な敬語の使い方です。
同様に「お願い致します」はお願いされているお客様、ならびにこの文を読んでいるお客様を立てているので、こちらも敬語としてはおかしくありません。(過剰かどうかは場の雰囲気や相手との関係性を踏まえた話し手の判断によります。)
それでは、また。