先日見つけたポスターです。
とある商業施設の給湯室に貼ってありました。
このような配慮があると重いお湯を持ち歩かなくても済むお母様方には、大変喜ばれるのではないでしょうか。お客様満足を意識した細やかな配慮は素晴らしいですね。繁盛している店はやはりサービスが違うと感心しました。
■いただく依存症
ただ、今回テーマにしたいのは、そのポスターに使われている「いただけます」の使い方です。何度か「いただく」の使い方については取り上げてきましたが、「いただく」は誤った使われ方をしているケースが非常に多く見られます。適切かどうかを検討することもできないまま、とりあえず「いただく」をつけてしまう、いわば「いただく依存症」が蔓延しているのです。
■「お作りいただけます」は何がおかしいか
このポスターに使われている「いただく」がどのようにおかしいか見ていきましょう。
まず、「お作りいただけます」から敬語を取り払うと「(私どもはお客様に)作ってもらうことができます」となります。子どもが「お母さんに頼めばお弁当を作ってもらうことができます」と言うなら分かります。その場合、お弁当を作ってもらった子どもがお弁当を食べるわけです。そして、「私は~できる」というからには、私が頼めばお弁当を作ってくれるような良いお母さんを私は持っているんだ、という喜びがあるのかもしれません。翻って、粉ミルクを作ってもらうのは施設側なのでしょうか。また、粉ミルクを作ってもらうことは、それほど難しいことではなさそうですが、あえて「できます」と強調する意味はなんでしょう。
結論から言えば、おそらく意味はありません。ただ「お作りいただきます」ではいかにもおかしいので「お作りいただけます」にしたのでしょう。ではなぜ、そのおかしな「お作りいただきます」を最初に選んでしまったのでしょう。
■ください禁止の呪い
サービス業は「ください禁止の呪い」にかかっているのです。
(サービス業だけに留まらないかもしれませんが……。)
もちろん「ください禁止の呪い」とは私が勝手に言っているだけの造語です。「ください」は命令だからお客様に対して使ってはいけない、という行き過ぎた風潮のことです。ですが、この呪いにかかると、「お作りください」という、ごく普通の日本語を言えなくなってしまうという恐ろしい呪いなのです。
「こちらのお湯は粉ミルク用です。ご自由にお使いください。」
「粉ミルクを溶かす方は、どうぞこちらのお湯をお使いください。」
このようなメッセージを読んで、命令されているようで不快だと怒る人がいるでしょうか。
施設側のサービスや配慮を気兼ねなく使って”いただく”ためには、「ください」のほうが良い場合もあるのです。
せっかく「いただく」を使うなら、「いただく」の意味を知って使ってほしい。
そんな思いから、新たな講座を作りました。
押さえておきたい主な特定形の理解と、特定形の中でも際立って使い方が難しい「いただく」の使い方を学ぶ講座です。
下記より、「いただく」「くださる」を使いこなす講座 をご用命ください。
「申込書にご記入いただきます」
「メールでお問い合わせいただいたのはいつでしょうか」
このような「いただく」の使われ方のどこがおかしいのかに気づき、修正できるようになるところまでを目的にした講座です。
サービス業・接客業の方には特に受けていただきたい内容です。
もし、「いただく」の使いすぎが気になっていたという方がいらっしゃったら、ぜひこの講座を受けてみてください。
お会いできるのを楽しみにしております。
それでは、また。