適切な敬語が使える人とは

■老人ホームにて

私は月に1回、仕事が終わってから老人ホームに行ってボランティア活動をしています。ボランティアと言っても掃除などほんの雑用であまり役に立ってはいないのですが、夕食後の和やかな雰囲気を共有させてもらえて、少し幸せな気分を味わうことができます。

 

そこでスタッフの方たちが働く姿を見ていると、同じことを言うにも言葉遣いが違うことに気づきます。例えば、何かを頼まれたとき、ある人は「ちょっと待っててくださいね」と言い、別の人は「ちょっと待って」と言います。 言葉だけ見ると「ちょっと待っててくださいね」のほうが丁寧ですが、「ちょっと待って」と言う人は相手の頬っぺたや体に触れながら笑顔で言っています。「ちょっと待って」と言われた人は「早くして」と文句を言いながらも嬉しそうです。

 

では、「ちょっと待っててくださいね」と言っている人も「ちょっと待って」と言ったほうが良いのかと言えば、そんなことはないと多くの人が思うでしょう。

 

■敬語は自己表現である

敬語は人間関係を表します。どのような敬語を使うかによって、また、敬語を使わないということによって人間関係を表しているのです。

 

「ちょっと待って」と言う人は、それだけ心の距離が近く信頼関係が出来上がっているからそう言えるのであって、たとえ私がその人のようになりたいと思い「ちょっと待って」という言い方を真似しても同じ人間関係は築けません。それどころか失礼な人だと敬遠されてしまうでしょう。 一方、「ちょっと待っててくださいね」と言う人は、自分と相手との距離がそれほど近くはない(近づいてはいけない)ということを踏まえて適切な言葉を選んでいるのです。

 

■敬語に正解はないが間違いはある

今回「ちょっと待っててくださいね」と「ちょっと待って」という2つの言い方を取り上げましたが、結論としてどちらが正解とは言えません。言ってみればどちらも正解です。 ただ、もし月に1回しか行かない、しかもボランティアの私が「ちょっと待って」と言うならば、それは明らかに間違いです。 また、「ちょっとお待ちされてくださいね」のような文法上の間違いも、明らかな間違いと言えます。

 

正解がないということはマニュアル化できないということを意味します。 新人に向けた、スタート時点の敬語は決められるかもしれませんが、それは”教わったことを教わったとおりに行う”状態にすぎません。マニュアルを使いこなせるうえで、”自分で築いた人間関係に基づき、いまこの人に伝えてあげたい配慮を示す”のは、自律して仕事をしている証です。つまり適切な敬語が使える人とは、自律して仕事ができる人です。

 

今回は、敬語を通して仕事のあり方を見てみました。

それでは、また。