前回、「締め切りを守らない社員になんと言えばいいか」は、問いの立て方が違っているのであるとお伝えしました。
締め切りを守らないのが他部署の人間であるということは、指示命令権のない、言ってみれば横の関係ということです。そもそも指示命令権がないのですから、何を言おうと情報共有以上の拘束力はありません。「困る」と言われても「はあ、困るんだ。そりゃそうだろうな」で終わるかもしれません。「締め切りを守ってください」と言われても「守れるなら守ってるよ」と心の中で舌打ちして終わるかもしれません。
締め切りに間に合うように提出してくれるようになるかもしれませんが、それは本人の自由意思に基いて行動しただけです。(もちろん、その自由意思に影響を与えることはできたかもしれません)
では、どのような問いの立て方が適切なのか。それは下記です。
【適切な問い】締め切りを守らない社員がいるときに、誰に何を伝えるべきか
このように適切な問いに立て直しただけで、答えが見えてすっきりした人も多いと思います。
それでは適切な問いの立て方に基づいて、どのように考えていくべきかを見ていきましょう。
■誰に伝えるのか
既にお分かりの方も多いと思いますが、これは「自分の上長に」が正解です。
報告義務が発生するのは、自分の仕事を管理監督している自分の上長です。
締め切りを守らない社員への指示・命令権があり、監督義務が発生するのは、その社員の上長です。
会社ごとに組織図は異なりますから、自分の上長が直接相手方の上長に話せるかどうかは分かりませんが、まずは自分の上長に伝えることがスタートになります。
■何を伝えるのか
伝える内容について、影響範囲別に見ていきましょう。
a)影響範囲が自分だけの場合
~愚痴はすっきりするまで言いましょう
例えば、二度手間が発生したとしても、他に影響は出ず、自分が不快になるだけで済むならば、誰に言わなくてもよいことなので、敬語で伝えることを考えるような範疇ではありません。愚痴を言える相手に、いかに不快だったかを聞いてもらいましょう。その場合、話す相手は上長でなくとも構いません。また、それを直接言える関係なのであれば、遅れて提出してきた本人に直接言うことが、一番すっきりするかもしれませんね。
1人遅れてきた人がいるだけで、作業が手順どおりに進められず手間がかかるということはあるでしょう。そのときに勘違いしやすいのは、「本来しなくていい仕事をやらされている」と認識してしまうことです。
「遅れてきた人の処理は来月に回す」というルールの仕事であれば来月に回せばよいだけですが、「遅れてきた人の処理も併せて行うしかない」のであれば、それは「本来やらなければいけない仕事」です。
そして人は、仕事をするために会社へ行き、働いているはずです。自分で望んで働いているのに、自分の仕事に文句を言うことは敬意に反しますので、私が教えるビジネス敬語の範囲外ということになります。
(愚痴の重要性を否定するものではありません。適度に愚痴が言える環境はビジネスにおいて重要だと思っています。ですから、愚痴はぜひ、すっきりするまで言ってください。ただ、ビジネス敬語で何と言おうかと考える内容とは次元が異なります。)
b)影響範囲が自分だけで収まらない場合
~影響範囲と影響の内容を伝えましょう
今回はなんとかなったけれど、もう30分遅く提出されていたら、もしくはこの状況にメンバーの突発休が重なったら、最終的に間に合わなかったかもしれない。
このように、自分の責任範囲を超えそうだ、人の責任範囲に影響が及びそうだ、そんなときには、上長への報告が必要です。
感情的に伝えると、上長はa)の愚痴だと勘違いするかもしれません。業務上必要なことを、事実と可能性を分けて明確に伝えましょう。また、上長側にいる人であれば、感情的に言っているからというだけで、愚痴だと聞き流さないようにしましょう。逆に淡々と言っているからといって、大した問題ではないと過小評価しないようにしましょう。
どんなことが想定されるときに報告が必要でしょうか。それは影響範囲が自分だけで収まらない場合です。例をいくつか挙げます。
・残業が発生する(かもしれない)
・次に仕事が引き継がれる部署に迷惑がかかる(かもしれない)
・取引先への支払いが遅れる(かもしれない)
などなど。
取引先への支払いが遅れると確定した状態で初めて話を持っていくことのないよう、可能性が生じた段階からこまめに報告します。
このとき、残業が発生するのは自分だけの問題と捉えている人もいるかもしれませんが、残業代は会社にかかる経費です。提出に遅れてきた人がいるために不要な経費が発生するのであれば、報告します。同様に、きょう済ませるはずだった仕事が、そのためにできなかったというようなことも報告が必要なことの一つです。
組織は自分一人では成立しません。
自分の仕事が誰に影響を与えるのかを意識しながら仕事をすれば、誰に何を伝えるべきかが見えてくるはずです。
そして、ビジネスにおける敬語は、お互いに支え合っている社会の中で、いつもお世話になっている相手に対する敬意を意識しながら使うものです。
「自分の仕事はいつも誰かに影響を与えている」ということと「いつも皆にお世話になっている」ということは同じ事柄の裏表を言い表しているにすぎません。そしてこの二つは、仕事の心構えとビジネス敬語の心構えです。この二つが同じことを表しているということが分かれば、敬語が分かるということがビジネスにいかに役に立つかが分かるのではないでしょうか。
それでは、また。