営業敬語「ご検討はお難しいでしょうか」

「お難しい」って普通に使うよね?

コールセンターに勤めていたこともある友人から質問されました。

コールセンターに勤めていたときは周りの人も皆こう言っていたのだから正しい使い方のはずだが、転職をしたところ、新しい上司からおかしいと言われたというのです。

今回は、この質問について考えていきましょう。

 

■形容詞に「お」は付くか

まず、文法から見ていきましょう。

「難しい」は形容詞です。形容詞に「お」や「ご」を付けることができるかと言えば、可能です。「お優しい」なら、誰も違和感なく受け入れることができるのではないでしょうか。文法的には同じ用法です。

では、文法的には両方とも同じで問題ないはずなのに「お優しい」は問題がなく、「お難しい」にはなぜ違和感があるのかを、次で見ていきましょう。

 

■マイナスイメージの言葉に「お」は付けない

「社長はお優しい方だ」とは言っても「社長はお難しい方だ」とはなかなか言わないでしょう。それは「難しい」という言葉が人格を形容するときに、あまり良いイメージとは言えないからです。敬語にするということはその単語を強調することにもなります。したがって、よほど親しい間柄の人でなければ、このような会話はできないでしょう。あまり親しくない人に言って、「あの人、社長の悪口言ってましたよ」とは言われたくありませんからね。

 

■曖昧な言葉を曖昧に使わない

「優しい」であれば人柄に限定された言葉ですが、「難しい」では何が難しいのか分かりません。もしかしたらこの社長はアレルギーを沢山持っていて、食べ物や飲み物、手に触れるものまでいろいろなところに配慮が必要で、それが難しいのかもしれません。専門用語ばかりを使って話すので、話す内容が難しいのかもしれません。

そのため、もし「難しい性格だ」と言いたいのであれば、人柄に限定する「気難しい」という言葉のほうが選択されるでしょう。(この場合も「お気難しい」とは言いません)

 

そこで、実際に使われた文脈を教えてもらいました。

 

■(お客さまに向かって)「ご検討はお難しいでしょうか」

なるほど、こういう文脈だったんですね。

 

まずは省略されている言葉を補ってみましょう。「お客さまにとって」です。

「お客さまにとって、ご検討はお難しいでしょうか。」

テーマを示す「は」がある文章の場合、それとは別に主語を示す「が」を置くこともできます。(「値札、私付けました」など)

「ご検討はお難しいでしょうか」という言葉だけを聞くと、「お客さまが」という主語が隠れていそうな気がします。しかし、実際に言葉を補ってみると、「お客さまがお難しい」という主語述語関係にはなり得ず、この文章の主語は「ご検討」であることが分かります。つまり、「お難しい」の「お」が立てている対象は「検討」です。

 

敬語は人を立てるために使うものですので、人ではないものを立てるこの用法は間違っているということが分かりました。

 

ちなみに、正しい用法は「ご検討は難しいでしょうか」です。

 

それでは、また。