お取り扱いしています#気になる敬語

先日、とあるショッピングモールで、トイレに入りました。

おしゃれなハンドソープが置いてあり、その隣に置いてあったポップが今回のテーマです。

 

■文法から

「お取り扱いしています」という言葉だけを取り上げれば、実は問題ありません。

(複合語は基本的に付加形にならない、という点はちょっと置いておきます)

 

「取り扱う」は他動詞なので、受け手尊敬が作れる動詞です。

「お~しています」という公式も問題ありません。

 

しかし、もちろん気になるところがあるのでブログに取り上げたわけです。

 

■誰を立てているのか

気になるのは、この文脈では立てている相手がいないということです。

 

「取り扱う」の目的語は「ハンドソープ」です。このこと自体は問題ではありません。問題は「取り扱う」ことによって誰を立てているのかということです。

 

「部長、カバン、お運びしておきます」と言ったとき、「運ぶ」の目的語は「カバン」ですが、立てている対象としては部長であり、そのことが文脈から明確です。

 

しかし、そのハンドソープを取り扱ってくれと私がお願いしたわけではありません。そのポップを書いた人も、そんなことは分かっていることでしょう。

商売であれば、商品を購入してもらえる可能性のある人は全てお客さまと考えます。なので、そのトイレに置いてあるハンドソープを使った人が「あ、これいいな、買いたいな」と思ってもらい、売り場まで足を運んでもらいたい、と思っているであろうことはもちろん私にも分かっているのです。

つまり、このポップを書いた人は、お客さまを立てるつもりで敬語を使ったのだということももちろん分かるのですが、ちょっとそれでは困るのです。

 

どのように困るのか、次をご覧ください。

 

 

■文字どおりに受け止めると、こうなります

敬語を使うということは、その人間関係を押し付けるという側面もあります。

今回の言葉を文字どおりに理解すると、以下のようになります。

 

当店は、このポップを読んだあなたのためにハンドソープを取り扱いました。

 当店が設置したこのハンドソープを試したか、試していないか、また、

 気に入ってくださったか、気に入らなかったかに関わらず、

 ただ、あなたのために取り扱ったのです

 

これでは、トイレの中まで追いかけてきて、「あなたはウチのお客さまだ!!」と宣言されているようで、言われたほうは困ってしまうのです。

 

■敬語は特定の誰かを立てる

例えば、下記のような店側と問屋の会話であれば、立てる相手が明確です。

 

問屋:ウチのハンドソープを取り扱っていただけませんか

店:いつもお世話になってますからね。それでは、お取り扱いさせていただきます。

 

太文字部分で立てているのは、問屋です。店が、問屋を立てている言い方であり、問題ありません。

 

 

■正しい言い方は

それでは何と書いてあればよかったのでしょうか。

言葉に正解はありませんが、参考としてひとつ挙げておきます。

 

「取り扱っております」

 

それでは、また。