「素直」について~後編

先週は、下記2点の敬語の考え方を使って、「素直」という言葉を見てまいりました。

①誰を立てるのかを考える ②相手を自然現象のように受け入れる

 

今週は、もう一つの考え方を紹介しながら「素直」という言葉をさらに見てまいりましょう。それは敬語の持つ「③距離を取る」という考え方です。

 

■嫌々やることは素直ではない

やりたくないことに従わなければならないならば、「素直」とは、結局のところ「従順」のことなのでしょうか。何も考えず何も感じず言われたことをロボットのように行うことが正解なのでしょうか。

それについても、敬語はヒントをくれます。

 

まず、敬意とは気持ちの一つです。嫌々ながら、もしくは渋々と、さらにはその感情すら押し殺して指示に従っている人に対して、上司はその人からの敬意を感じ取ることができるでしょうか。先週、「自然現象のように受け入れる」とお伝えしましたが、これは「嫌々ながら、もしくは渋々と」やるということでは、もちろん、ありません。

 

敬語は、人と人がお互いに心地良い関係を築くための言葉です。

「嫌々ながら、もしくは渋々と」では、そもそも本人が心地よくはありませんし、心地良くはないということを表明されている相手も心地良くはなれません

(苦しむ自分を見ても、その人の心地良さに全く変化がない、それどころか、かえって喜んだり安心したりしているようだという人が、もしあなたの周りにいたら、とても危険なので誰かに助けを求めるか逃げるかしましょう)

 

「嫌々ながら、もしくは渋々と」という気持ちを感じてはいけないというわけではありませんが、その気持ちしか表明するものがない状態というのは、その人にとってあまり望ましい状態ではありません。

それよりも、「ありがとうございます」と感謝できる状態を自分の心の中に作りましょう。それには、「現実を受け入れる/自分の心に距離を取る/感謝する」という3つの行動が必要です。

 

■③-1 理想と異なる現実をありのままに受け入れる

営業をやりたくて入社したのに資料作成ばかりで全く客先に連れていってもらえない、自分は然るべき経験も積んで実績も上げたのに昇進させてもらえない、他の人は接客しているのに自分だけバックヤードで値札付けや在庫整理など地味な仕事ばかりさせられる、自分は計算が得意でミスなどしたことがないのにチエック手順を省くなと怒られる……。

 

いろんな人や様々な条件が絡み合う職場では、自分の思いどおりにいかないことのほうが多いかもしれません。

 

そんなときに「こんなはずじゃなかった」と考えると苦しくなります。

そうではなく「そうなんだ」と受け入れ、ここで自分はどうすればいいのかを考えます。

 

■③-2 自分の心に距離を取る

予想していた未来と実際にやってきた現実が大きく食い違うとき、それもマイナス方向へ大きく食い違うようなときには、その現実を受け入れるのが難しくなります。

 

こんなとき、ゼロか百かで考えると、周りからどんな反応が返ってこようと自分を押し通すか、プライドを押し殺して上司の言うなりになるかという極端な判断になってしまいます。それはどちらを取っても、誰も幸せではありません。

なぜゼロか百かになってしまうのでしょうか。自分の想いに近づきすぎるとそれしか見えなくなってしまい、他の選択肢が見えなくなってしまうことが原因です。そこで、その自分の想いに距離を取ります。

 

自分の想いに距離を取れば、現状を受け入れつつも感謝できる可能性が広がります。

 

■③-3 ただ受け入れるのではなく感謝して受け入れる

距離を取るとはその自分の想いをちょっと客観的に見るということです。自分の理想どおりになることが1番だとしたら、1番ではないけれど、現状も2番、3番、4番ぐらいには良いと言えるのではないかと考えてみるのです。例えば、「自分が望む営業にはまだ行けないけれど、この資料がうまく作れるようになれば、いざ営業に行くときに役立つスキルだから、まずはこれから身に付けよう」と考えられる人は、同じ状況でも感謝して働けます。そうすれば、周囲の人も資料作成をお願いしやすくなり、本人も周囲の人も、職場での時間を心地良く過ごすことができます。

 

それなのに自分の想いが常に1番でなければならないと考え、「自分は営業がやりたいと面接でも伝えて入社したのだから、こんな資料作成をさせるのは不当だ!早く営業に出すべきだ!」と言って無理にそれを通そうとすると、周りと摩擦が生じ、周りの人も困るでしょうし、自分の不満もたまる一方です。それは、お互いに不幸です。 

 

「今昇進できないからといって、この先ずっと昇進がないわけではない。今の地位のままでもできる範囲で、自分の経験を周りにも共有し、みんなで実績を上げられるようになろう」

 

「値札付けは好きな仕事ではないけれど、接客も値札付けも、誰かがやらなくては仕事が成り立たないのだから、みんなが接客で頑張っている間、自分も頑張ろう」

 

「自分は計算が得意だから人よりミス率は低いかもしれないが、物事に絶対はない。上司の言うとおり念には念を入れてきちんとチエックしよう」

 

このように、自分の想いと少しだけ距離が取れれば、感謝する心の余裕ができます。

 

1番の理想を願う自分を無視する必要はありません。

「今、自分は営業に行けないけれど、この先にちゃんと営業がつながっているんだから、そこを目指して頑張ろうな」と自分を励まし認めてあげることは大切です。きちんと行ってあげてください。

 

それでは、また。

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