お召し上がり方#気になる敬語

巣ごもり消費で冷凍食品を買う機会が増えました。冷凍食品を買っておけば、保存がきくので、買い物に行く回数を減らせます。最近の冷凍食品は味もおいしくて、下手なお店にも負けません。

 

そうしたら、ここにも気になる敬語がありました。

今回は冷凍食品の裏にある調理方法の欄に書かれていた、気になる敬語を取り上げます。(ちなみに、この冷凍食品も大変おいしく頂きました。)

 

■「お召し上がり方」

本当は「食べ方」と言えばよいところを、お客さまが読む言葉だからと気を遣ったのでしょうが、これではちょっとおかしな言葉としか言えません。もとの言葉が「作り方」だったら、きっと「お作り方」とは書かなかっただろうと思うと残念です。

 

「お召し上がりください」とは言いますが、残念ながら「お召し上がり方」とは言いません。

同じ「お召し上がり」が含まれているのに、この二つの言葉は何が違うのでしょうか。

 

この二つの言葉を比較しながら、説明していきましょう。

 

■「お召し上がりください」を分解する

「お召し上がりください」を敬語を使わない文体にすると「食べてくれ」になります。これは、以下のように分解されます。

「食べ」+「て」+「くれ」です。

 

しかし、これを「お召し上がりください」に当てはめると下記のようになります。

「食べ」に該当する言葉が「お召し上がり」、

「くれ」に該当する言葉が「ください」。

よって「お召し上がり」+「ください」に分解することができます。

 

「お作りください」も同様に分解すると「お作り」+「ください」です。

敬語を使わない文体では「作っくれ」です。

 

おかしいですね。「て」はどこへ行ったのでしょう。

実は本来、「お召し上がりください」は「お召し上がり”になって”ください」と言うべきであり、ややこしい説明を省いて簡単に言うと、このような場合、「て」に該当するのは「になって」です。

 

なのですが、それでは少々言葉がうっとうしいので、動詞連用形の名詞化を使って名詞化された言葉に「お」を付けたものと「ください」をつなげる場合「になって」は省いてよいというのが敬語だけに許された特別ルールです。

したがって、「お召し上がりください」も「お作りください」も正しい敬語です。

※「動詞連用形の名詞化を使って名詞化された言葉」では長いので私は「名詞化動詞」と呼んでいます。動詞連用形の名詞化については、2時間目-接頭辞-お-ごをご覧ください

 

■「お召し上がり方」は分解できない

一方、「お召し上がり方」を敬語を使わない文体にすると「食べ方」になります。

※これは動詞に「方」という接尾語が付いた派生語であり、名詞です。

「食べる」も「召し上がる」も動詞なので、両方とも接尾語の「方」を付けて「食べ方」「召し上がり方」と言うことはできます。しかし、「作り方」を「お作り方」と言ったり、ましてや「食べ方」を「お食べ方」とは言わないように、「召し上がり方」を「お召し上がり方」とは言えません。

 

この誤った言葉の成り立ちは、おそらく「召し上がり方」の敬度を増そうと「お」を付けてしまったということなのでしょうが、それでは蛇足なのです。動作の主体を立てる「お」は、名詞化動詞に付く接頭語です。動詞から派生して名詞になった言葉には付かないからです。

 

■「お」は誰かを高める

文法的に言えば、動作の主体を立てる「お」は派生語には付かないし、動詞にも付かないということが結論になるのですが、そもそも「お」は誰かを高めるときに使います。

もちろん「食べ方」を読むお客さまを立てたかったという企業側の意図は分かるのですが、「食べ方」「作り方」「召し上がり方」「●●方」はただの方法や手順であり、その点では立てる対象がいません。「お●●方」がおかしいのは、「お方法」や「お手順」がおかしいのと同じです。

 

敬語は誰かを立て、尊重するために使います。

お客さまが読むものだから取りあえず「お」を付けておこうと安易に考えるのではなく、敬語のルールを踏まえ、この「お」が一体誰を立てているのかをイメージして使ってほしいと思います。

 

最後にもう一度強調しておきます。

【動作の主体を立てる「お」】は名詞化動詞にしか付きません。

 

それでは、また。

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