「申し訳ございません」によって消えた謝罪の中身

先週は、職場での謝罪について説明しました。その内容を一言でまとめれば、職場内での謝罪には、言葉と認識と行動変容がセットになっていなければならないということです。

さて、この中に、気持ちが入っていないことにお気づきでしょうか。

 

「気持ち」がなくていいとは言いませんが、社内コミュニケーションであれば、重要性は高くありません。とても落ち込んで「申し訳ない」という気持ちがあふれんばかりの謝罪の言葉を述べても、次も全く変わらずに同じミスをする人と、ボソッとしたお詫びでも次からはミスがなくなっている人では、後者のほうが職場としては有り難いはずです。対社外や、対お客さまなど、ソトのコミュニケーションであれば、ボソッと言うお詫びなど許されることではありませんが、社内などウチのことであれば、行動で気持ちをはかられる度合いが大きくなります。

 

しかし、最近は逆に、すぐに謝罪の言葉を口にするものの、行動を変えようとしない人が増えているような気がします。例えば、スマホを操作してはいけないところで操作していて、注意されるとすぐに謝るものの、そのままスマホを操作し続けるというようなものです。職場でも、謝罪の仕方はうまく、いかにも反省しているように見えるがミスは減らないという人が増えているように感じます。

 

私はこれらの遠因として、「申し訳ございません」の弊害があるのではないかと思っています。

 

今回は、この「申し訳ございません」の弊害についてお伝えします。

 

「申し訳ございません」という言葉は無い

「とんでもございません」が本来は間違った言葉であり、本来は「とんでもない」という形容詞であるということをご存じの方は多いと思います。(現在、正しい言い方として認められてはいます)

 

それと同じで、実は「申し訳ございません」という言葉は無いのです。

実生活上は、特に営業やサービス業においては、「申し訳ございません」を禁止したら仕事が成り立たないのではないかと思われるほどに浸透した言葉ですが、本来は「申し訳ない」という一つの形容詞です。ですから、「申し訳」と「ない」を切り離して「ない」だけを「ございません」に変えることもはできません。

 

「申し訳ございません」の代わりに、「申し訳ないことでございます」と言うべきだということを言いたいのではありません。「申し訳ございません」と一言言えば文章ができる独立語になってしまったということが問題なのです。

 

■形容詞「申し訳ない」と、独立語「申し訳ございません」

独立語とはその名のとおり、他の文節との係り受けを必要としない言葉であり、その言葉だけを「。」で終えて一文にしてもおかしくない言葉です。例えば「もしもし。」という呼びかけや、「うわあ。」などの感動、「こんにちは。」のようなあいさつなどです。「おはようございます。」と同様に、「申し訳ございません。」も、その一語だけで文章になります。

 

一方、形容詞は、基本的にはそれ一語では文章になりません。「赤い」という形容詞なら「君のほっぺたは赤いね。」「赤く染まった夕焼け雲がきれいだね。」などと、何が赤いのか、形容する対象が必要です。「申し訳ない」が形容詞であったなら、本来は何が申し訳ないのか、形容する対象が必要であったのに、「申し訳ございません」という独立語に変化したことによって、何が申し訳ないのか分からなくても言える言葉になってしまったのです。結果として、クレームの常套文句である「申し訳ございません、と言えば済むと思ってるんだろう!」の温床になったわけです。

 

■「申し訳ないことでございます」と言ってみる

「申し訳ございません。」の代わりに、「申し訳ないことです。」「申し訳ないことでございます。」と言ってみてください。なんだか違和感がありませんか。妙に堅苦しいということもありますが、それだけではなく、「申し訳ないことっていったい何だ?」「何が申し訳ないんだろう?」と気になってモヤっとしてしまいます。

 

なぜ「申し訳ございません。」だとモヤっとしないのに、「申し訳ないことです。」だとモヤっとしてしまうのでしょうか。

 

先ほどの「ほっぺたが赤い」「赤い夕焼雲」と同じように形容詞であれば「○○が申し訳ない」「申し訳ない〇〇」となるべきはずです。この「〇〇」という空白が見えてしまうことによって、この〇〇は何だろう、と気になるのです。「申し訳ない」という形容詞が形容している対象は何なのかを考えて文章の空白を埋めなければなりません。この、空白を埋めようとすることが考えることにつながるのです。

 

例えば遅刻が多い新入社員であれば、この空白を考えると、以下のような言葉になるかもしれません。

「先輩の皆さんよりも後から出勤するなど、礼を欠き、申し訳ないことをいたしました。」

「先日もご指摘を受けたばかりで、また遅刻するなど、なんとも申し訳ないことです。」

 

このように謝罪したならば、先週のブログでお伝えした、「迷惑をかけている認識」「それが自分の責任であると認めること」の二つができていることが分かるでしょう。この二つが分かっているならば、行動変容の必要性にも気づきやすくなります。

 

先にも述べたとおり「申し訳ないことでございます」は、堅苦しく、実用的ではないかもしれません。しかし、「申し訳ないことでございます」という言葉と共にその考え方まで捨ててしまったことで、実はコミュニケーションが取りづらくなっているのではないでしょうか。そして、そうならないように、「何がどう申し訳ないのか」を考えながら謝罪をするようにしてほしいと思います

 

先週、今週と読んでくださった方は、部下は大変で上司は楽だという印象を持たれたかもしれません。それについては、来週以降、お伝えしていきたいと思います。

 

それでは、また。 

 

※使用した写真は「ぱくたそ」のフリー素材です。

https://www.pakutaso.com/20190617175post-21480.html

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