自分の責任だけを考える~上司①

前回のブログで、敬語は自分の責任について考える言葉であり他者を責める言葉ではないと書きました。

 

 今回は、上司の責任について考えていきます。

 

■上司は誰かの部下である

上司の責任とは何でしょうか。

まず、上司は、そのまた上司の部下であるという当然の事実があります。

 

つまり、先週のブログで書いたことが全て当てはまります

 

ですので、それを分からず、上司に対して「偉そうにしやがって。ああ、早く出世して、あんなふうに人に言ってやりたいな。」と思う部下がもしいるとしたら、自分から見える上司としての側面のみで判断しており、視野の狭い人だと判断されてしまうかもしれません。

 

では、上司のいない社長ならどうでしょうか。

社長であれば、お客さまに、株主に、そして社会に対して責任を負っています。

 

無資格者完成検査問題の自動車メーカー、二段階認証を知らずサービス停止に追い込まれたスマートフォン向け決済サービスの会社、施工不良問題の賃貸アパート大手企業など、世の中を騒がせた事件を見れば分かるように、社長であれば誰からも責任を問われないどころか、より一層責任を求められます。

 

では、話を上司に戻しましょう。 

 

上司は、自身の上司に対しては部下であるので、部下としての責任を持っているのに加えて、部下の行為については上司として責任を負います。その上司としての責任を具体的に見ていきましょう。

 

■上司としての責任

業種により、また職種により、仕事はいろいろあるので、上司がやるべきことも多種多様だとは思いますが、共通点を挙げれば下記3点に集約されるのではないでしょうか。

 

①ライン上の情報(=指揮系統を流れている情報)を滞りなく上下に流す

この情報には、上からの指示や、現場からのヒヤリ・ハット情報など、全てが含まれます。

※ヒヤリ・ハット情報:重大事故には至らなかったけれども、いつか重大事故に至るかもしれないような小さなミスや事故の情報

 

②組織が期待する成果を出す

上司であれば、自分一人で成果を出すことはできませんので、そのためには部下を管理監督することになります。

また、必要に応じて、上下の他、自分と同列のラインとも連携します。

 

③部下を育成する

①② を行うために必要な教育や指導を行います。

 

 この3つを詳しく見ていきましょう。

 

■①ライン上の情報を滞りなく上下に流す

ビジョン、目標、指示などは上から降りてきます。それを下に流します。

 

自分より下のラインにやってもらわなければならない指示は当然下に流しますが、その際にビジョンや目標なども併せて落とし込まなければ、ビジョンや目標に沿った成果は当然ながら期待できません。

 

例えば、「今期の目標は5000万だ!前期のたった20%アップだから、やればできる!」では動けない人もいるでしょう。

 

「当社は●●を通して人々に幸せになってもらうための会社だが、対象の業種に絞ってもまだユーザーは1%にも満たない。今期はまず当社の認知度を上げるために宣伝広告費を倍増する。営業に行って、あの会社ね!と言ってもらえるように社としてもバックアップするので、ぜひ積極的に販路を拡大してくれ。」

 

実際にこのような言い方をするかどうかは分かりませんが、ビジョンや目標設定の背景に加えて、何よりトップから現場までが一体となって目標に取り組んでいる姿勢が伝わったほうが、より多くの人を動かすことができます。

 

それはなぜでしょうか。

 

立場が違えば見える範囲も違うので、上司である自分が見えているもの全てを部下に見せることはできませんが、なるべく組織の方針やビジョンなどは共有し、指示の背景をも伝える必要があります。そうすることによって、部下も含めた全員が組織の一員であり、一本のライン上に居るという認識を持つことができます。まず、部下にその認識を持ってもらうことは、部下一人一人が主体的かつ能動的に動くために必要なことだからです

ラインの一員としての主体的な判断がなければ、次に挙げる、「適切な報連相」が期待できなくなります。あるべき姿が分からなければ、あってはならないリスクにも気づけません。目的が分からなければ、目的に合致した成果物も出せないでしょう。

結果として、上司は責任を果たせなくなります。つまり、上司である自分の責任を果たすためには、まず上からの情報を下に滞りなく流すこと、それも、上から来たメールをただ下に転送するように流すのではなく、自ラインに合わせて適切に咀嚼して落とし込むことが求められます。

それがあってこそ、成果報告、定期連絡、相談などが下から上がってきます。

 

自分のところに上がってきた報告や連絡などのうち、さらに上げることが決まっているものはもちろん上げます。その他、自分では判断できないものや、自分の責任の範囲を超えているものは上に相談をします。

 

これが滞ると、白斑問題でリコールを行った化粧品メーカーのように大事件になってしまいます。

当該化粧品メーカーは2011年からお客さま窓口に「白斑ができた」との相談があったにも関わらず、それを上に上げていませんでした。結果、被害者は増え、対応の遅れを責められ、2013年7月に「完治するまで責任をもって対応する」として回収や商品代金の返金など、通常のリコールをはるかに超える対応を取りました。しかし、リコール決定時点で、美白成分と白斑の因果関係は認められていなかったのです。もし2011年の段階で上層部がそれを問題視していれば、もしかするとリコールをはじめ一連の騒動は避けられたのかもしれません。

 

そうすると、上司として考えるべきは、必要な情報が全て自分のところに上がってきているだろうかということです。現場を視察する、ヒアリングをするなど、自分から情報を取りにいくことも必要でしょうが、上司である自分に対し、一人一人の部下が気になったことをスムーズに言えるような人間関係を築けているかということも大切です。報連相のうち重要度の高いものは、失敗やリスクなど、組織にマイナスの影響を与える情報です。例えば特定のクレームが多く発生していたとしても、自身が上司にマイナスの報告をするぐらいなら部下に我慢してそのクレームを受け続けてもらおうと考える上司と、部下がそんなにクレームばかり受けているなら、それは対策が必要なのではないかと考えて対応しようとする上司がいたとしたら、どちらの上司に報告が上がってくるでしょうか。

 

報連相が来ない。もしくは良いことは言ってくるが、悪いことは隠そうとして、それを指摘しても改善されないのであれば、もしかしたら上司である自分の態度を見直し、部下との関係を修復する必要があるのかもしれません

 

 私が開催している敬語講座では、受講生の方から、「上司にリスクを伝えても何もしてくれない」という話を伺うことがあります。せっかく部下が報連相をしても、それを上司が聞き流し、さらには「愚痴を聞いてやっている」という程度に捉えてしまったら、もう部下は報連相をしても意味がないと学んでしまいます。

 

報連相が欲しいのであれば、部下が報連相を「してよかった」と思えるような対応が必要でしょう。きちんとお礼を伝えることも一つです。さらに、部下の報連相に対して、具体的な対応を取ることができれば、部下は報連相をした甲斐があったと思うでしょう。そうは言っても、今、具体的に対策を取るようなことばかりではないかもしれません。しかし、必要に応じて自身の上司や他部署とも連携を取って情報を共有するなど上司自身が報連相を適切に行っていれば、部下もそれに倣うことでしょう。

 

ここまでで既に随分と長文になってしまいました。

続きは次回といたしましょう。

 

それでは、また。

 

※写真は「スタンディング会議中の上司と部下のフリー素材 」ですhttps://www.pakutaso.com/20140921261post-4590.html

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