「ご利用できません」の不適切さを文法から解説します#気になる敬語

ご利用できません

新型コロナウィルスの影響で、出入り口を制限している店舗が増えました。

写真もその一つです。

そして、残念ながら敬語の使い方が間違っています。

 

敬語が使われてさえいれば、お客さまに敬意を払おうとしたのであろうことは伝わります。お客さまをばかにするためにこんな文言を選んだとは誰も思いません。

 

ただ、「こんなに多くの従業員がいて、誰も指摘できないん風土だろうか」

「上司はこれを見て修正を指示しなかったんだろうか」

「接客業なのに、敬語の教育を受けていないんだろうか」

などと残念な気持ちになることは否めません。

 

敬語の間違いの中でも、非常に多いものの一つなので、これまでにも何回か説明していますが、今回は下記の会話を使って説明してみたいと思います。

 

客:敬老の日のプレゼントって、いつまで注文できますか?ーーー①

店:前日まででしたら、ご注文になれますよーーー②

客:発送もお願いできますか?ーーー③

店:はい、都内でしたらお受けできますーーー④

 

設定は、客と店員というシンプルな上下関係です。

会話に使われている敬語は、正しい使用例です。

これを題材に、敬語の可能表現についてなるべく分かりやすいよう、専門用語を極力使わず、細かな補足情報もばっさりと省いて説明したいと思います。

 

そして、「ご(お)~できる」を間違ってお客さまに対して使っている例がとても多いので、そんな人が身近にいたら、このブログを紹介してください。

 

それでは、上記の会話の順番で説明を進めていきます。

 

 

①特に誰も立てない言い方

客:敬老の日のプレゼントって、いつまで注文できますか

 

この「注文できますか?」は、特に誰も立てようとはしていません。「私(=客)が注文する」と決めているわけでもなく、単に誰かが注文するとしたらいつまで可能なのかという情報を求めているだけです。

 

※”ます”も敬語ですが、今回はなるべく話をシンプルにするため、説明から省きます

 

 

②動作する人を立てる言い方

店:前日まででしたら、(お客さまは)ご注文になれますよ

 

「ご(お)~になれる」は、その動作をする人を立てる言い方です。

 

日本語では、登場人物を省くことがよくあります。文脈で判断できる場合も省けますし、敬語を使うことで人物が特定される場合も省けます。

ここで立てているのは「注文する」という動作をする「お客さま」です。

逆に言うと、客と店員と2人しかいないときに「お~になれます」と言えば、その動作をする人は、立てられている側なのだから、客と特定できます。

 

 

③④動作する人を立てない言い方

客:(私は)発送も(あなた=店 に)お願いできますか

 

ここでは、省かれている登場人物が2人になりました。

「願う」という行為を行うのは「私(=客)」ですが、立てているのは「あなた(=店)」です。動作する人である「私(=客)」を立ててはいません。

 

 

店:はい、都内でしたら(私はあなたの依頼を)お受けできます

 

ここでも2人の登場人物が省かれています。③と同じで公式は「ご(お)~できる」です。仕組みも同じで、「(発送依頼を)受ける」という行為を行う「私(=店)」を立てず、「あなた(=客)」を立てています。

 

このように「ご(お)~できる」は動作をする人ではない人を立てる言い方です。

大概は、この③④のように「私の行為」に使って、「私よりもあなたのほうが大切ですよ」というメッセージになります。

 

 

「ご(お)~になれる」を使う

③や④で見たように、「ご(お)~できる」という敬語はあります。しかし、それが誤って使われるのは、ほぼ②の状況で「ご注文できる」と言ってしまうケースです。

 

写真の「ご利用できません」も、動作する人を立てない言い方であるにもかかわらず、まさに利用する人である客のことに使ってしまっている点が間違いなのです。

 

間違えて使う多くの人は「ご(お)~になれる」を使い慣れていないのでしょう。本来は使い分けなければいけないのに、どんな場合も「ご(お)~できる」だけを使ってしまっているのではないでしょうか。

「ご(お)~になれる」を、まずは使ってほしいですね。

 

 

敬語は、立てる対象によって使い分けが必要な言葉

 

例えば「持てる」という言葉を敬語にするとき、誰を立てるかによって「お持ちになれる」と言うべきなのか、「お持ちできる」と言うべきなのかが変わってきます

 

荷物を持つその人を立てつつ、重いけど大丈夫?と聞きたいなら「(あなたは)お持ちになれますか」と言います。

 

立てるべきお客さまに向かって、在庫があればすぐ持ってこれるよ、と伝えたいなら「(私は)すぐお持ちできます」ということで、持ってくる自分ではなく、商品を待っているお客さまを立てることになるのです。

 

写真のように「ご利用できません」と客に向かって言ってしまったら、「客よりも店のほうが偉い」と言っているのと変わりません。そしてそんな気持ち言っているのではないであろうことが容易に想像できるからこそ、嘆息するしかないのです。

 

初対面の人から、人当たりの良い笑顔で「てめえの趣味はなんですか」と言われたらどんな気持ちになるでしょう。「ご利用になれます」と言うべき相手に対して「ご利用できます」と言うということは、「あなた」と呼びかける相手に対して「てめえ」と呼びかけるようなものです。それが日本に来たばかりの人であれば、指摘してあげることもできますが、相手は日本人で、それもいい大人なのです。

 

日本に来る外国人が、間違った日本語を覚えてしまうことのないようにするためにも、ご自身が恥をかかないようにするためにも正しい敬語を知っておいて損はありません。

 

それでは、また。