「ご質問していただく」

■文法はおかしくなくてもおかしな敬語 はある

この言い回しをよく聞くのは接客の場面です。

 

この言葉自体を取り上げればなんら文法的に問題はありませんが、もし「お~していただく」を尊敬語だと思って使っているなら、それは大きな間違いです。


元々、「していただく」を使うときに「お」を頭につけて使わなければならないという決まりはありません。「お~していただく」という公式など敬語にはありません。

 

「もらう」の<向かう先>を立てる言い方が「いただく」です。「してもらう」という言葉は、ただ単純に「して」と「もらう」をくっついているだけなので、「していただく」になるというだけのことです。
※「<向かう先>を立てる」については2時間目:接頭辞「お」「ご」をご参照ください

 

なぜそんなことを言うかというと、「お~していただく」という公式があるかのように使われている場合が多々あるからです。

あなたもどこかのコールセンターに電話して言われたことがありませんか?
「何かございましたらまたご質問していただけますか?」とか

 

なんだか、これが普通の日本語なんじゃないかって錯覚を感じそうになるくらい広がってませんか?

 

何かございましたらまたご質問していただけますか?
この言葉から敬語の要素を取り払って平常文に直すと「何かあれば、また質問してもらえる?」です。主語は“わたし”(=企業側の人間)です。
さらに、主語や目的語を省略せずに言うと、「何かあれば、わたしはあなたから質問してもらえる?」。

 

どうですか?なんだか不思議な言葉です。

いったいなぜこの人は、そんなに質問してほしくて、しかも質問してくれるかどうかを確認したいのでしょうか。


この問題の原因のひとつは「(~して)ください」という言葉を“命令だからお客さまに対しては使うべきではない”とする風潮です。

 

「何かございましたら、どうぞお気軽にご質問ください」という自然な日本語を封じているために、おかしな日本を使わざるを得なくなっているのです。

※これを私は「ください禁止の呪い」と勝手に呼んでいます。この呪いにかかっている人が日本中、特に接客業に蔓延しています(笑)

 

■命令は配慮に欠けるか

“命令だからお客さまに対しては使うべきではない”という根拠になっているのは、もちろん、命令は目上の行為であり、人に命令するということは上から目線の偉そうな行為だから、ということです。

 

しかしこれでは、あまりに物事を単純化しすぎています。

 

例えば、友人に何かをしてあげたとき、友人はあなたに「ごめんね、ホント助かった。ありがとう!」などというかもしれません。

それに対し、これくらいで友人の役に立てるならお安い御用だと感じるならば、「またいつでも言ってね」と言うのが普通ではないでしょうか。このようなときに、「またいつでも言ってもらえる?」と相手の意向を確認する人はあまりいません。

 

「言って」は命令です。しかしこの場合、命令をすることこそが配慮です。

それは、通常、人は相手に迷惑をかけたくないと思っているという前提があるからです。迷惑をかけたくないと思っている相手に、またそれをするかどうかを訊くよりも、相手の返事を求めず、命令することで相手の遠慮をあえて無視し、相手にも湧き上がる遠慮を無視するように自然に促すことのほうが、よほど親切だと考えるのが敬語の考え方です。

 

命令という形をとったとしても、ニーズは友人側にあるわけですから、その後、何かを依頼することがなかったとしても「ニーズがなかった」だけです。つまり依頼するかしないかの主導権はあくまでも友人側が握っており、この命令によって友人の主体性を損なうことはありえません。返事を求めない分、相手に立ち入らない控え目さも備えた言い方なのです。

 

■「ご質問して」の敬意はどこを向いているのか

「ご質問していただけますか」には2つの敬語が使われています。

1つが上記の「いただく」。

そしてもう1つが「ご●●して」。

2つとも行為する人よりもその行為の対象のほうが目上であることを表す言い方(=<向かう先>を立てる言い方)です。

 

この場合、1つ目の「いただく」については、「もらう」のが企業側、誰からもらうかといえばお客さまなので、お客さまを目上に扱う言葉です。一方、2つ目の「●●する人」はお客さまなので、お客さまよりも企業のほうが目上であることを表していることになります。

 

敬語が分かる人にとっては、企業を目上に扱う言葉遣いにイラっとすることはあっても、いちいち目くじらを立ててはいられません。そんなことをしていたら、いろんな企業に腹を立てなければいけなくなって疲れてしまうからです。したがって、実際には聞き流す人が99%です。

 

しかし、そこに甘える企業姿勢に対し、疑問ぐらいは呈させてもらいましょう。


ではまた。

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