クリスマスが終わると、もういよいよ年の暮れです。
大晦日には年越しそばを食べるという方も多いと思いますが、私はそばよりもうどんのほうが好きなので毎年年越しうどんを食べています。
今回はそんなうどんの話です。
近所にあるうどん屋の店頭に貼られていたポスターです。
気になったのは「お持ち帰りできます」の部分です。
もう、「ご(お)~できる」を取り上げるのは6回目になりましたが、まずは基本の説明から。
■「ご(お)~できる」は、「~」する人を立てない
「ご(お)~できる」とは、敬語の型の一つであり、本来下記のような使い方をします。
①店員が客に:「枝豆ならすぐご持ちできます」
②部下が上司に:「会議室ならすぐお取りできます」
①であれば、持ってくるのは店員であり、敬意を表したい対象は客です。
②であれば、会議室を取るのは部下であり、敬意を表したい対象は上司です。
■「お持ち帰りできます」で立てているのは誰か
実は、今回取り上げる「お持ち帰りできます」は、既に「ご(お)~できる」Part2#気になる敬語で既に説明しています。
Part2では「お持ち帰りできます」を言葉のままに解釈すると以下のようになると締めくくりました。
「ご自宅にいらっしゃるご家族さまに、あなたは持ち帰って差し上げることができますよ!」
つまり、店が客に向かって「お持ち帰りできます」と言うときに、動作主は立てず、持ち帰る先の人を立てるのだから、「買ってくれる客よりも、客が持ち帰る先で待っている人のほうが偉い!」ということを意味するのです。
さて、今回は同じ言葉ではありますが、「お持ち帰り」の部分だけ赤字になっていて、ちょっとこのポスターは違うことを言っているように思えます。
■「お~できる」の型ではありません!という主張
このお店は、洒落た言葉の使い方をするので、以前にもブログで取り上げたお店です。ですから、「お持ち帰りできます」が客を立てない言い方であることは分かっているはずです。
そこで、私がこのポスターを作った担当者が言わんとすることを、想像力を駆使し、デフォルメして言葉にしてみました。
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当店は、持ち帰り用にしてお渡しできますので、どうぞご利用ください。
もちろん正しい敬語じゃないのは分かっています。
でも、周りの店を見てください。
もう「お持ち帰りできます」だらけじゃないですか。
うちだけ「お持ち帰りになれます」なんて書くと目立ってしまいます。
うちも客商売なんで、味やサービスで目立つのは嬉しいことですが、
そんなところで目立ってよその間違った言葉遣いへの批判みたいに
思われるのも困るんです。
そもそも一般の方には「お持ち帰りできます」と書いたほうが
見慣れているし伝わりやすいですよね。
「お持ち帰りになれます」なんて、
敬語を知らない人にしてみたら違和感しかないですよ。
いや、正しい言葉遣いをないがしろにしていい
と言っているつもりはないんですよ。
だからね、こう解釈してくださいな。
「お持ち帰り」は美化語です。美化語として使っているんです。
「持ち帰る」という動詞を「お」と「できる」で挟んでるって読むから
おかしくなるんですよ。
ほら、「おにぎりできます」って書いてあったら、三角の、
あのおにぎりを作ってくれるんだって違和感なく読めるでしょ。
それと同じですよ。
だから「お持ち帰り」と「できる」で明確に分けられるように
色を付けましたんで、ここらへんで勘弁してくださいな。
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■敬語が人間関係を表す機能を失いつつある
ポスターを作った担当者の思惑を勝手に想像して書いた文章の中で、「美化語」という言葉を使いました。
「美化語」とは言ってみれば誰も立てないけれど、ちょっと言葉を可愛くしたり見栄えよくしたりする言葉です。「お花」「お金」「おトイレ」など、いろんな名詞に「お」を付けて使います。言ってみれば「私はこれが可愛いと思うけどあなたにとっても可愛いわよね」というような、相手を対等に見る言葉であり、適切な距離を取るというよりはパーソナルスペースを共有して仲良くしたいときに使う言葉です。
したがって、使いすぎると厚化粧のようにうっとうしくなったり、幼児語のように子どもっぽくなったりするので、ビジネスの場では、適度に抑えて使います。
それよりも、本来敬語の持つ大切な機能は、敬意と人間関係を表すことです。
それが失われていく一つの象徴的なポスターのように思えてなりません。
■来年もよろしくお願いします
さて、今回は年内最後のブログです。
楽しんでいただけたでしょうか。
今年一年、誠にありがとうございました。
私のブログでは、来年も敬意と人間関係を表す敬語をお伝えしていきますので、どうぞよろしくお願いいたします。