「お召し上がりください」はどんなときに使いますか?

今回も、読者の方から頂いた質問にお答えしたいと思います。

それが今回のブログタイトルですが、もちろん、「お召し上がりください」という言葉の意味は分かるんだけれどもどんなシチュエーションで使えばいいのか自分の中でしっくりこない、ということだと思います。

 

敬語の使い方の説明に入る前に、「敬意逓減の法則」と「敬度」の説明にお付き合いください。

 

■敬意逓減の法則

敬意逓減の法則とは、敬意を込めて使われていた言葉でも、時の流れとともにその敬意が薄れていくという法則です。

よく使われる言葉であればあるほど、手垢がつきやすい傾向にあります。
相手への呼びかけはよく使われる言葉の代表格ですが、時代の変遷とともに変わっています。「お前」「貴様」などは、もともとは尊称でしたが、今ではよほど仲のいい友人か、喧嘩を売るときぐらいしか使えなくなってしまいました。

 

■敬度

敬度とは、読んで字のごとく敬意の度合いのことです。

「敬度の高い言葉」というように、その言葉が持つ敬意の度合いを表すときにも使いますし、「もっと敬度を上げて話したいなら……」というように、気持ちとしての敬意の度合いを表すときにも使います。

 

■「お召し上がりください」を分解する

「お召し上がりください」を無敬語にすると「食ってくれ」になります。
助詞の「て」を接着剤として、「食う」と「くれ」の2つの動詞が使われています。

今回のポイントは、「食う」のほうなので、そちらに焦点を当てていきます。

 

■「食う」⇒「お召し上がり(になる)」について

「食う」はもともと相手を見下すような言葉ではありません。そして、「食べる」は「食う」よりも一段敬度の高い言葉でした。

しかし、食べるというのは、日に何度も、毎日毎日行われる行為であり、つまり「よく使われる言葉」です。
よく使われる言葉は敬意逓減の法則により敬度が下がります。

結果、「食う」はあまり品のない言葉という印象になって、言ってみれば敬度がマイナスになりました。「食べる」は元の「食う」と同じ位置になったので、言ってみれば敬度はゼロまで下がったようなものです。それに続いて敬度マックスだったはずの「召し上がる」が元の「食べる」と同じ位置まで下がってしまいました。
そうすると、もともとの「召し上がる」を使いたかったときに該当する敬度の言葉が必要になります。
そこで出てきたのが、文法上は二重敬語であり、本来であれば誤った言葉遣いであるはずの「お召し上がり(になる)」です。

 

■「敬度」は心の距離

ここまでで見てきたように「お召し上がり(になる)」は最高敬度の言葉です。

したがって、「お召し上がりください」という言葉を、社長に対して使ったり、高級レストランで給仕が客に向かって使ったりするというのが、通常の使い方です。
また、普段から「~でございます」「~とおっしゃいました」という言葉遣いしかしない、という人も問題ありません。

一方で、その場で求められる敬度よりも高い敬度の言葉を使うと、「よそよそしい」印象を与えてしまいます。
例えば、職場へお土産を持って行ったときに他の皆には「よろしかったら、召し上がってください」と言っているのに、その皆と同じ役職の一人だけ「お召し上がりください」と言ったら、不自然ですよね。
もちろん、その一人があなたの上司ということであれば、一人だけ敬度を上げた理由は明確で、ふさわしい使い方ということになります。

あえて、ふさわしくない言葉を選んだと受け止められた場合には「冗談」もしくは「いやみ」になります。

例1)料理などしたことがない人が、初めて挑戦した料理を、友人を呼んで振る舞うときに「どうぞ、お召し上がりくださいませ!」と言う

例2)普段は「ごはん、できたわよ」しか言わない妻が、浮気がばれた夫に向かって「お食事ができました。どうぞ、お召し上がりください。」と言う

 

■敬語は「自己表現」

「食ってくれ」
   ⇓
「食べてくれ」
   ⇓
「食べてください」
   ⇓
「召し上がってください」
   ⇓
「お召し上がりください」

同じことを伝えるにも、敬度のバリエーションはいくつもあります。
(ここに「お食べになる」「いただく」「か?」「ますでしょうか。」などを加えればバリエーションは何倍にも増えます)

この、豊富なバリエーションの中から、自分が最もふさわしいと思う言葉を選ぶから、敬語は「自己表現」になるのです。

 

■最後に

黒白ではっきりと答えられる問題ではなく、ご質問をくださった方がこれを読んですっきりなさるかどうか不安ですが、ご満足いただければ幸いです。
もし、ご質問の意図と異なる場合は、コメント欄よりお気軽にご指摘ください。改めてご回答します。

 

それでは、また。

 

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