今回頂いたご質問は、「敬語がとっさに出てきません。敬語を使おうと思うと言い淀んで不自然になってしまいます。どうしたらいいでしょう?」というものです。
これは、正しい敬語を使おうとすればこそ出てくる質問ですね。
■敬語を知っているからこそ難しい
正しい敬語を知らない人にとっては、単語の頭に”お”を付けているだけなので、とても簡単です。
「このような敬語なら、状況も関係なければ、誰に向かって敬意を払いたいのかも分かりません。敬語で表現されているのは「私は敬語を使っていますよ!」というアピールだけです。(もちろん、使っているのが「正しい敬語」とは限りませんが)
このような敬語なら、状況も関係なければ、誰に向かって敬意を払いたいのかも分かりません。敬語で表現されているのは「私は敬語を使っていますよ!」というアピールだけです。
一方で、そんなものではないと知っている人は悩んでしまいます。
今、立てるべき人は誰なんだろう、その人を立てるために使うべき敬語は何?
えっと、尊敬語だっけ?謙譲語だっけ?
「ください」って使っちゃいけないんだっけ?
などなど。
こんなことを考えながら話していたら、言葉が出てこなくなってしまいますね。
やがて、
「こんなにどもってたら、変な人だって思われちゃうよ。
こんなんだったら、敬語使わないほうがいいや。」
とあきらめてしまったら、
せっかく敬語を使おうと思ったのに、とてももったいないことですね。
■英語を学ぶときは
さて、英語を学んだときのことを思い出してみましょう。
英語の授業で、あなたはどんなことをしましたか?
①文法を学び、②例文を見て、③単語を覚え、④それを実際に声に出したり書いたりして練習しましたよね。
義務教育を修了した人なら例えばこんな流れで勉強をしたのではないでしょうか。
①現在形や現在進行形などの文法を学ぶ
②「 I study English .」「 I am studying English.」などの例文を見る
③ 「eat」「swim」「sing」などの単語を覚える
④「I swim everyday.」「Now, I am eating dinner.」などの文を作り、練習する
このように①正しい文法にあてはめて、②例文を参考にしながら、③いろいろな単語で応用文を作り、④それを書いたり声に出したりして何度も何度も練習をして体になじませていきました。
■敬語は外国語を学ぶように勉強する
ところが、敬語を学ぼうとするとき、②しかやらない人が多くいます。
文法を教えてくれる人もいなければ、練習する場もないからです。
他店で「お持ち帰りできます」とPOPを貼っているから、ウチも同じPOPにしよう、という感じで、デザインは自分の店に合わせて変えるのに、言葉はそのままです。
英語については現在形と現在進行形を使い分けられるのに、日本語については尊敬語と謙譲語が使い分けられない。それではせっかく素晴らしい敬語というシステムがあるのに、宝の持ち腐れです。
文法が分からなければ、それが間違った例文であっても、間違っていることに気づきません。だから、「お持ち帰りできます」が巷に広まってしまうのです。
※「お持ち帰りできます」については、このブログでも何度か取り上げています。
「お持ち帰りできます」の不適切さを文法から解説します#気になる敬語などをご覧ください。
言葉が文法という基本ルールにひも付いていないので、状況が異なっているのに自分が見た例文と同じ言葉を使ってしまうのです。
また、単語を覚えなければ、別の文を作れません。
単語の意味を誤って覚えていれば、当然、作った文章も間違ってしまいます。
例えば「拝見」を「”見る”という意味の敬語だ」として覚えていたら、お客さまに向かって「どうぞ、ウチの会社のパンフレットを拝見してください」と言ってしまうかもしれませんよね。(実際に我が家にやってきた営業の言葉です)
■簡単な文章を身につけるところから
まずは、簡単な文章を作ることから始めましょう。
①文法
尊敬語「お+動詞(連用形)+になる」「ご+動詞(連用形)+になる」
謙譲語「お+動詞(連用形)+する」「ご+動詞(連用形)+する」
②例文
尊敬語「社長がお待ちになる」
謙譲語「社長をお待ちする」
③単語
「”書く”の連用形は”書き”」
「”話す”の連用形は”話し”」
「(荷物を)”運ぶ”の連用形は”運び”」
「”作る”の連用形は”作り”」などなど。
④いろんな動詞を使って、尊敬語と謙譲語が迷わず口を突いて出てくるようになるまで練習する
練習は、ほんの隙間時間にできます。例えばニュースを見ながら、キャスターを立てる尊敬語なら「キャスターがお話しになっている」と作れますし、視聴者を立てる謙譲語なら「キャスターが(視聴者に)お話ししている」と作れます。
■実際の会話では、敬語に迷っている暇はない
実際に敬語を使わなければならない誰かと会話をするときには、相手の話を理解し、自分の意見をまとめ、相手に誤解なく伝える話の順番を工夫するなど、考えることがたくさんあります。そんなときに「あれ?敬語でなんて言うんだっけ?」などと考えてはいられません。
事前の練習で身につけた敬語しかとっさのときには出てこないものです。
それでは、また。