「おっしゃっていた」と「言ってらっしゃった」の使い分け

読者の方から寄せられたご質問にお答えしたいと思います。


「そう言っていたので」と言いたいときに、

「そうおっしゃっていたので」と言えばいいのか、

「そう言ってらっしゃったので」と言えばいいのか、分からなくなります。

 

どちらが正しいのですか?


敬語に正解があると思うと、このようなラビリンスに引っ掛かってしまうことがあります。

 

言葉には、間違いはあっても唯一絶対の正解はありません。

 

自分の伝えたいことに合っていれば正解です。

 

しかし、敬語の仕組みが分かっていなければ、自分の伝えたいことが合っているかどうかも分かりません。だから文法を知ることが大切です。

 

■素材敬語は、その単語一つにしか係らない

以前のブログで、素材敬語の話をしました。

 

素材敬語とは、簡単に言えば尊敬語と謙譲語のことです。

 

素材敬語は、単語一つごとしか敬語にできませんので、単語一つごとに敬語にするかしないかを決めなければなりません。

 

ご質問の例では、「言って」と「いた」、2つ尊敬語にできる部分がありますから、それぞれを尊敬語にするのかしないのかをご自身で決めなければならないことになります。

 

2つの単語に、それぞれ[する/しない]があるわけですから、当然組み合わせは4つになります。

 

■4つのパターン

 

①両方ともしない ⇨ 「そう言っていたので」

②前者だけする  ⇨ 「そうおっしゃっていたので」

③後者だけする  ⇨ 「そう言ってらっしゃったので」

④両方ともする  ⇨ 「そうおっしゃっていらっしゃったので」

 

①では敬語がまったく使われていませんから、ビジネスの多くの場では使えないでしょう。

④は雲の上のような人に使う場合にはいいですが、少し字数が増えすぎて、日常的には大げさすぎるかもしれません。

そうすると、②と③のどちらを使うべきかを考えることになります。

 

■敬語にすれば、強調される

敬語にするとは、その単語に話者が注目していることの表現でもありますから、その分、強調されます。

 

「言っていた」の「いた」は補助動詞といい、動詞に付けてニュアンスを補う役目を果たします。メイン動作としては「言う」という行為だったわけです。

 

なので、選択の仕方としては、「言う」という行為が大切な場合はそちらを敬語にし、「言う」ことそのものは重要ではないという場合には「いた」を敬語にするとよい、ということになります。

 

■強調したいのはどんなとき

では、「言う」を強調したいのはどのようなときでしょうか。

敬語を使われるに値する偉い人として発言したとき、ということになります。

上司なら、仕事の話をしたときです。

例をご覧ください。

 

後輩「既存顧客のフォローで忙しいのに、なんで新規開拓しなきゃいけないんですか」

先輩「新規開拓がなければ拡大はないって社長がおっしゃってるんだぞ」

 

社長の発言に「おっしゃる」という敬語を当てることによって、ただの言葉ではない、命令権のある人からの命令なのだということを表しています。

 

逆に仕事としての話でなければ、強調する必要はありません。

後輩「社長って、ラーメンは豚骨派だそうです」

先輩「へえ、そうなの」

後輩「はい、そう言ってらっしゃるの、聞きました」

 

もちろん、「はい、そうおっしゃっているのを聞きました」でも意味は通じます。

しかし、これでは社長の愛嬌ある一面について話しているというよりも、社長とラーメンに行ったときに豚骨を注文しないと左遷されてしまうかもしれないという真剣な話に聞こえます。

 

この2つを使い分けることで、上下関係だけでなく、話の内容も意識した敬語表現ができるようになります。

 

このように敬語は、微妙なニュアンスの違いを表現するための欠かせないツールです。ぜひ、使いこなしてください。

 

それでは、また。


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