政治家の「お諮りをいたしたい」という発言はなぜ不自然なのか~#気になる敬語
本日は、某政治家の気になる発言を取り上げます。
文脈としては、まん延防止等重点措置について専門家の意見を聞きたいという主旨の発言です。
■諮るとは
まずは、言葉の意味を確認しましょう。
諮る(はかる)とは、他人に意見を求めたり、相談したりすること。(Weblio辞書より)
※めったに見ることのない漢字ですが常用漢字表に載っている漢字です。
①不要な「を」
まず気になるのは、「お諮りをいたしたい」の「を」です。
「こちらにお示しをしているとおり」「ご説明をいたしたく」などと言葉の途中に「を」が入る言い方で、政治家から聞くことが多いように思います。
”言葉の途中に”と書いたのは、「お~する」がひとまとまりの敬語だからです。
「(注文を)お受けする」「(食事を)お作りする」などと使い、行為者ではなく行為の受け手を立てるときに使います。
例の場合だと、受注者ではなく発注者を、作り手ではなく食べ手を立てるときに使います。この場合、「お受けをする」「お作りをする」とは言いません。
もし、この政治家が自分が意見を聞きたい専門家を立てようとしてこのような言い方をしたのであれば、「お諮りしたい」「お諮りいたしたい」と言うのが正しい使い方です。
②「諮る」のは目上から目下
「他人に意見を求めたり、相談したりする」だけなら「聞く」「質問する」「相談する」でもいいはずですが、「諮る」が使われるのは相談する先が個人ではなく会議体の場合で、しかも自分側にその会議体を設置したり招集する権限がある場合に使われます。
例えば平社員が「先輩、その件なら僕から係長にお諮りしています」とは言いませんよね。
矛盾した言い方をする意図は
つまり、この発言は「諮る」という自分が目上であることを示す言葉を使いながら、「お~する」と相手を立てる言葉を使うという、矛盾した発言です。
この言葉から受ける印象は責任回避的にその場をごまかす心理状態です。あくまで私の主観ですが、言葉にしてみると以下のようになります。
行政が専門機関や有識者に意見を求めることを「諮る」っていうけど「諮ります」ではエラそうで国民からの反発を買うよな。とりあえず「お」を付けて「お諮り」ってしといたほうが無難かな、うん、よし。
じゃ「お諮りしたい」でいいのかな。いや、前になんかのときに「お~する」は謙譲語だからこういうときに使うのは適切じゃないって怒られたことがあったな。こういうときは「を」を入れて「お~する」の形に合わないようにしておけば謙譲語とか尊敬語とか考えなくて済むし、丁寧っぽく聞こえるから得策だな。
よし、これでOK。
何を言うかは誰かが決めてくれるかもしれませんが、どう言うかにはその人の考え方や姿勢が表れます。
私には、こういう言い方をする人が国難に臨みきちんとした対策をしてくれるようには、残念ながら思えません。
言葉はその人の印象を左右します。大切にしてほしいですね。
それでは、また。