先週のブログで「諮る」という言葉を取り上げました。その中で『「諮る」のは目上から目下』と書きましたが、少し誤解を招きかねない表現だったかもしれないと思い、今回、補足したいと思います。
■中立的な言葉の場合
敬語は、上下のない中立的な言葉に、敬意を込めてその対象を立てる機能を持たせることができます。
例えば、「歩く」行為に、新入社員も社長も違いはありませんが、「お歩きになる」と言えば新入社員ではなく社長の行為を指します。
同様に「願う」というのも立場に関係なく誰もが行う行為ですが、願う本人ではなく願うという行為の受け手である新入社員を立てる敬語を使って「君にこれをやってもらいたんだが、お願いしてもいいかな」と言えば、”偉ぶらない、謙虚な社長”という印象になるかもしれません。
■元から上下が内包されている言葉の場合
同じく新入社員と社長の二者しかいない状況だとして、「指示する」という言葉であれば、それは敬語にせずとも社長の行為を指します。
そこで、社長の行為に敬意を表して「指示なさる」ということはできます。しかし、指示を出す社長ではなく指示を受ける新入社員を立てる敬語を使って「君に、これをご指示しよう」と言うならば新入社員を立てることになってしまい、実際の立場と逆転してしまいます。
このように通常の解釈とはあまりにもかけ離れた人間関係を敬語で表現するならば、それは”嫌み、もしくは冗談”を表します。
冗談で済めばいいのですが、嫌みと受け止められてしまっては人間関係がこじれてしまうかもしれません。
■言葉の意味も意識する
「諮る」「指示する」は、その言葉の意味として行為者が既に目上であることが含まれているので、行為の受け手を立てる敬語はそぐわないということについて説明しましたが、このような言葉は他にもあります。
例えば、「教える」とは教師の行為であり、「先生」と呼ばれ尊重される人という意味を内包しています。
このような言葉を店員が使い、お客さまに向かって「操作方法を教えます」と言っては立場をわきまえていないことになります。
そこで、さらに敬語を使って「操作方法をお教えします」と言っては既に述べたように嫌みになってしまいます。
敬語にするしない以前の問題として、このような言葉を使ってはいけないのです。このような場合には「操作方法をご案内します」と言葉自体を変えてください。
もちろん、家庭教師のように教えるのが仕事だが、教える相手に仕えているともいえるという場合に「お教えします」と言うのは問題ありません。
その他にも「買う」という言葉は既に行為者が「客」であるという意味を内包していますから、たとえ社長の奥さまが趣味で出した店に行ったとしても「お買いします」とは言えません。
敬語を使っているのにどうも相手に敬意が伝わっていないという場合には、敬語にする前の言葉にも注意してみてください。
それでは、また。