「お持ち帰りできます」という言葉を間違いだと気付く人は少ないかもしれません。
このサイトをいつも見てくださっている方は既にご承知かもしれませんが、多くの人にとってはあちこちで目にするなじみ深い言葉になっていることでしょう。
それでも、今回ご紹介する「お持ち帰りしませんか」なら間違いと気付く人も増えるかもしれません。
■「お(ご)~する」は、「~」する人を立てない敬語
以前のブログでもご紹介したとおり、「お(ご)~する」は行為する側ではなく、行為を受ける側を立てる敬語です。
※例えば「食事をお作りする」であれば、食べる人を立てる言い方です。たとえ「社長が(食事を)お作りする」場合であっても、"食べる人のほうが社長より目上である"という意味を表します。
もっと詳しく知りたい方は、2時間目:接頭辞「お」「ご」の「¶動詞に付ける」をご参照ください。
そして、この敬語が持つ意味は、「お(ご)~する」が、「「お(ご)~しない」になろうと変わりません。
・お客さまにお出しする
・お客さまにお出しします
・お客さまにお出ししない
・お客さまにお出ししません
・お客さまにお出ししませんか
上記のどの言い方であれ、人間関係としては「出す」という行為を行う側よりも、お客さまのほうが目上であるということを表しています。
これを「お持ち帰りしませんか」にあてはめれば、「持ち帰る」という行為を行う側よりも、その行為を受ける側を立てることになります。
言い方を変えれば、店と客の間に上下関係はないか、客のほうが目下です。
これも分かりづらいかと思うので例を挙げましょう。
■「お出ししませんか」が表す人間関係
職場でAさんが
「Bさん、お客さまにお茶をお出ししませんか?」
と言うとき、言葉が表す人間関係としては、
”あなた(=Bさん)や私(=Aさん)よりもお客さまのほうが目上”です。
AさんとBさんのどちらが目上かについては分かりませんが、実際問題として、今回の例文であればBがAの上司であることはまずあり得ません。
(「社長、お客さまにお茶をお出ししませんか」とは通常の職場では言えませんよね)
考えられるのは、同僚(=対等)、もしくは後輩や部下(=目下)です。
そして、同僚に向かって発せられた言葉であれば”提案”であり、
後輩や部下に向かって発せられた言葉であれば”命令”です。
■どのように言えばよいか
この看板を出した店が、客に向かって命令をしているとは思いませんが、この言い方では、少なくとも客を目上として見ていないことだけは明らかです。
それであれば、余計な人間関係を持ち込まない「持ち帰りませんか」という言い方のほうがよいでしょう。
客を目上として立てて表現したい場合には、下記のような言い方ができます。
「お持ちになりませんか」
「持ってお帰りになりませんか」
「持ち帰り用がございます」
「容器にお詰めできます」
もちろん、他にもいくつもの言い方があるでしょう。
場にそぐわない敬語は、着方を間違えた着物のようなものです。
借りものの衣装のような言葉ではなく、自分の言葉として使えるようになると、店としての品格も上がるのではないでしょうか。
それでは、また。