先々週のブログを読んだ方より、ご質問を頂戴しました。
人生相談などで、自分の交際を、
・このかたとお付き合いさせていただいております。
・彼にプレゼントを買っていただいたのですが・・
というふうに、身近な人々に、
甚だしい場合は、自分の両親にさえ、
尊敬・謙譲を用いて書く人が大変多くなったのですが、
これをのどか先生はどう思われますか?
是非、快刀乱麻で教えてください!
快刀乱麻といくかどうかは分かりませんが、頑張りますね。
■「させていただく」がなぜ気になるのか
「させていただく」の使い方が気になるという人は多いのではないでしょうか。
そこ、「させていただく」、要るかなぁ。
大げさ過ぎない?
「誰に」させていただいたんだろう……?
気になる、の中身をあえて言葉にすると、こんな感じではないでしょうか。
「させていただく」が表すのは
「●●さまの許可を得て、ありがたいことに私が▲▲することができる」
という意味です。
「●●さま」は目上、大切な人など、話者が立てたいと思っている人です。
「許可を得て」は、●●さまの「おかげで」というニュアンスまで含みます。
例えば「地元で10年、商売を続けさせていただいております」と言うとき、「大切な●地元の皆さま●のおかげで、ありがたいことに私が▲商売を続ける▲ことができる」という意味になります。
■「●●」が2つの条件を満たしているか
つまり「●●」が誰を指しているのかが
①明確に見えるか
②文脈と整合性があるか(▲部分と合っているか)
の2点がポイントになります。
それでは、ご質問の2文を使って、2つの条件を満たしているかを確認しましょう。
■この方とお付き合いさせていただいております
ご質問くださった方の設定では、話者の「両親」を含む「身近な人」に話しているということでした。
それでは、自分の親でもいいし、学校の先生でも、会社の同僚でも構いませんが、「この方とお付き合いさせていただいております」というとき、それは聞き手の許可を取って付き合っているのでしょうか。付き合っているのは聞き手のおかげでしょうか。
おそらくそうではありません。
それならば、この言い方はふさわしくないということになります。
逆に、この言い方が適切であるならば、それは「●●さま」の許可を得て、おしくは「●●さま」のおかげで付き合うことができているときです。
例えば、次の例文のような使い方です。
先日ご紹介いただいた方と、その後も▲お付き合い▲させていただいております。
「あなたが良い方をご紹介くださったから、私はお付き合いをすることができる。あなたのおかげです。ありがとうございます。」という意味です。
これならば、「●●さま」は紹介者である聞き手ということが明確で、状況と文脈に齟齬がありません。
では、もう一つの例を見てみましょう。
■彼にプレゼントを買っていただいたのですが……。
これも、日本語として間違いかと言われればそんなことはありません。
ただ、使う時と場所を間違えると、おかしく聞こえるということです。
もしあなたが、職場の同僚から「彼にプレゼントを買っていただいたの。」と言われたらなんと思うでしょう。
「良かったわね」「あら、素敵ね」と口では言っても、なんかムカつく、ということになりませんか。
この場合、「●●さま」は明確で「彼」を指します。
ただし、「●●さま」は目上、大切な人など、話者が立てたいと思っている人です。話者が立てたいと思っていることを、聞き手にも共有したいから口に出して相手にも聞かせます。
つまり、「私の素晴らしい彼は、あなたにとっても素晴らしい彼である」ということです。
敬語は人間関係を表すものですから、「あなたにとっても素晴らしいかしら…」「素晴らしいと思ってもらえると嬉しいんだけど…」というような控え目な表現ではありません。
「素晴らしい」という宣言であり、その人間関係を押し付けるものです。
逆に、この言い方が適切なのはどんな状況でしょうか。
例えば、
お義母さま、太郎さんにプレゼントを買っていただいたのですが、私なんかにこんな素敵なもの、似合っているでしょうか。
というような使い方です。
この場合、「●●さま」は太郎です。
自分の夫である太郎を立てることによって、その親である義母を立てています。
以上、ご回答になりましたでしょうか。
それでは、また。