「すいません」から知る音便の話

あなたは、通りすがりの人と肩がぶつかったとき、「すみません」と言いますか?

それとも「すいません」と言いますか?

 

今週は、読者から頂いた、表題のご質問にお答えします。

 

■「すみません」と「すいません」

 「すません」と「すません」では、ミがイに変化しています。すると本来は「済みません」という言葉のはずが「吸いません」と聞こえてしまいます。

 

これは、発音しづらい言葉が言いやすい音に変化する音便という現象で、この場合、イに変化しているので、イ音便といいます。

 

■イ音便の例

 ただし、「すません」は、正しいイ音便の使い方とは言えません。

「すいません」は「すみません」のくだけた言い方です。

 

次の言葉と見比べてください。

 

例えば、「月を跨いで計算する」。

イ音便を使わなければ、「月を跨て計算する」です。

「かゆい所に手が届く」は、「かゆ所に手が届く」。

 

さあ皆さん、正しく「跨ギて」「かゆキ」と言いましょう。

👆こんなことを言う人は、あなたの周りにいませんよね。

現代語である「跨いで」「かゆい」などは、イ音便の正しい使われ方です。

 

■正しい言葉は「すみません」

 元となる動詞は「済む」ですから、正しい言葉としては「すみません」です。

 

では、いついかなる場面も「すみません」を使うべきかと問われたら、そうとも言えません。「すみません」では堅すぎて場に適さず、「すいません」のほうが合うという場合もあるからです。

 

■正しい言葉遣いが良いとは限らない

 この「すイません」のように、文法的に正しいとはいえないが、実際には使われる音便はほかにもあります。

 

例えば、毎日顔を突き合わせる上司に「ちょっと、これお願い」と言われて、こんなふうに答える部下がいるかもしれません。

 

「あ、すません。

 今からお昼なです。

 お昼終わった後でもいいすか。」

 

「なです」のように「ン」に変化するものを撥音便(はつおんびん)と言います。

「いいすか」のように「ッ」に変化するものを拗音便(ようおんびん)と言います。

そして、例に挙げた「なです」「いいすか」は、「ません」と同じく、音便の正しい使い方ではありません。本来の言葉よりもフランクに崩す言い方です。

 

中でも「いいっすか」は、くだけすぎですが、「すみません。今からお昼なのです。」も堅苦しすぎて不自然ですよね。

相手との関係性や話題によっては、崩すということも必要です。

 

そして、もう一つお伝えしておきたいことがあります。

 

■「すみません」はビジネスでは使わない

 ビジネスとはいっても、ちょっと冗談を言い合えるような社内の会話であれば、「すいません」「すみません」で構いません。

 

しかし、メールなどの文章や、取引先のような社外の人との会話においては、「すみません(すいません)」を使うこと自体をお勧めしません。

 

なぜなら、「すみません(すいません)」は、以下のような複数の意味で用いられるからです。

あのー、すみません、えっとー」(言い淀み)

遅刻してすみませんでした」(謝罪)

すみません、あの件ってどうなりました?」(声掛け)

 

私は、このように使う側から見れば便利な言葉を「ジョーカー言葉」と勝手に名付けています。使われる側から見れば、玉虫色でどのような意味に取るかを丸投げされている、無責任な言葉遣いです。

 

ビジネスの場では、誤解なく明確に意味を伝えることが求められますから、曖昧な言葉は避けましょう。

なんと申しましょうか」「うまくご説明できるか心もとないのですが」(言い淀み)

申し訳ございませんでした」(謝罪)

今、ご質問してもよろしいでしょうか」(声掛け)

 

自分の伝えたいことを相手にくみ取ってもらうのではなく、自分が責任をもって言葉にして相手に伝えることが大切です。

 

以上、ご参考になるでしょうか。

 

それでは、また。