「買い求めやすくなりました」の間違いを文法的に説明します#気になる敬語

「お求めやすい」という言葉については、以前、別の記事で取り上げました。

また、私の記事を見るまでもなく、「お求めやすい」という言葉を検索してもらえれば、それが誤った言葉遣いであることを指摘するサイトは多くあります。

しかし、今回取り上げる言葉「買い求めやすくなりました」は初めて耳にしたように思います。
また、一瞬「お買い求めやすくなりました」と言っているのだろうか、「お求めやすい」の亜型だろうか、とも思いましたが、たしかに「お」は付いておらず、敬語ではないので、私が取り上げる言葉ではないのかもしれません。

それでもやはり、この言葉、気になります。

■どこで使われていた言葉か
私は、この言葉をニュースで聞きました。

野菜が豊作で値が下がったということを、そのニュースキャスターは「買い求めやすくなりました」と言っていたのです。
聞き間違いかとも思いましたが、それを受けて別のキャスターも同じ言葉を使っているところをみると、これは、意図的にこの言葉を選んだとしか思えません。

これは私の想像ですが、おそらくは「お求めやすくなりました」は誤用だと知っていた番組は、それに代わる言葉を探したのではないでしょうか。
そして「買い求めやすくなりました」を使おうと事前に打ち合わせたのではないかと思うのです。

ただ、それであれば、少々残念な結果になりました。

■接尾語「やすい」
接尾語とは、言葉の後ろにくっついて、意味を加えたり品詞を変えたりするものです。
その中で、「やすい」は動詞の連用形について形容詞を作る接尾語です。

「買い求め」は動詞の連用形です。それならば「やすい」を使って形容詞にすることに文法上の問題はないのではないかとも思いますが、文法上問題がなければなんでも言えるかというと、そうはならないことも他の例を見れば明らかです。

■食べ残しやすい食事
「食べ残す」という動詞はあります。

連用形は「食べ残し」です。
「やすい」をつなげれば「食べ残しやすい」になります。

では、クリームシチューにパイナップルを入れて出したところ、回収した食器には、どれを見てもパイナップルがあったとしましょう。

食べ終わってなお皿に残っているもの(ここではパイナップル)は、「食べ残し」ですね。
このように多くの食べ残しが出るクリームシチューを「食べ残しやすい食事」と言うでしょうか。
その状況を会話をするなら、下記のような言葉を選ぶのではないでしょうか。

  「パイナップルばっかり残ってるね」
  「みんなパイナップル残してるね」
  「パイナップル食べないね」

■普通が大事
多くの人に商品を印象付けたいコマーシャルや、独創的な小説家が”どうしても自分の感性を表現するには今の言葉では足りない”と言葉を作ることはあるかもしれません。しかし、多くの人に情報を伝えるニュースであれば、別に新しい言葉を作る必要などありません。「野菜が安くなりました」「野菜の価格が下がりました」など、普通の日本語を使えば、それで十分です。

■ルールを知る
言葉にはルールがあります。

今回取り上げた言葉は敬語ではありませんが、おそらくはかしこまった特別な言葉を使わなければと力んでしまった結果、このような言葉を使ってしまったのではないかと推察します。同様にルールを知らないために、何か特別なことをしなければと過剰敬語になる人が多いのは事実です。
私の想像どおり、スタートが「お求めやすい」の代わりになる正しい言葉を探す、ということだったとすると、灯台下暗しで普通の言葉でない言葉を探してしまったのかもしれません。

■複合語は扱いが異なることが多い
そんなとき、「複合語は扱いが異なることが多い」ということを覚えておくとよいかもしれません。

複合語とは、二つ以上の言葉がくっついて一つの言葉になったもののことです。

「お電話」はよくても「お携帯電話」とは言わない。
「お泣きになる」は正しくても「お泣き叫びになる」はおかしい。

同様に、「買いやすい」は避けられなくても、「買い求めやすい」とは言わずに済んだかもしれないと思うのです。
※今回の場合、客として話しているわけでもないニュースキャスターが「買いやすくなりました」というのは立場上おかしくても、コメントとして「これぐらいの価格になると、いち消費者としても買いやすくなりますね」と言うなら問題ありません。

それでは、また。