先日、知人から質問を受けました。
それが、こちらです。
バスで流れる「〇〇にお越しの方は、こちらがご便利です」というアナウンスが気になる。「ご便利」という表現は正しいのだろうか。
「ご便利」を取り上げるのは2回目です。以前の記事では「誰から誰への敬意なのか」という視点で書きましたので、今回は別の視点でご説明してまいりましょう。
■結論
結論から言えば、間違いです。
正しくは
「こちらが便利です」
と言います。
■「ご」は単語に係る
敬語を使う人が、よく勘違いしているように見受けられることがあります。
それは「ご」(または「お」)が文に係るという勘違いです。
【文に係る敬語】
例えば「です」「ます」は文に係ります。文の終わりにどちらかを付ければ、その文全体を通して、聞き手を立てる意思表示になります。
【単語に係る敬語】
「ご」(または「お」)は付いている、その単語にしか係りません。
「ご便利」と言ったら、「便利であるものを立てる」という、ただそれだけの意味です。聞き手が誰だの、話し手が誰だのは関係ありません。問題は、便利なのは誰(?)か、ということです。
それでは、便利なのは誰でしょうか。
■便利なのは誰(?)か
「こちら」ではイメージしづらいので、「A町1丁目」というバス停だったとしましょう。
同様に、「○○」は「A町役場」としましょうか。
そうすると、こんなアナウンスになります。
「A町役場にお越しの方は、A町1丁目がご便利です」
さて、隠れた登場人物も含めると、この文には3人います。
①A町役場
②バス側(話し手でもあります)
③乗客(聞き手でもあります)
さあ、この3人のうち、誰を立てたくて「ご便利」と言っているのでしょうか。
バス側の動機としては間違いなく③乗客でしょう。
ただし、それは、サービスを提供するバス会社と乗客という状況からバス側の言わんとすることを聞き手が推測しているにすぎません。そして、この推測には、文法という要素が含まれていません。
「お越しの方」って乗客を立ててるんだよね、だったら「ご便利」も乗客を立ててるんでしょ、という類推でしかないのです。
■文法から考える
もう一度、アナウンス文を見てみましょう。
「A町1丁目がご便利です」
さて、これなら便利であるものが分かったでしょうか。
そうです。
「A町1丁目」です。
これでは、場所を立てていますね。
だから、間違いなのです。
A町1丁目さまって便利で素晴らしい😍
A町役場に近くてステキ💛
こう言っているようなものです。
先ほどは、あえて誰を立てたくて「ご便利」と言っているのでしょうと問いをずらしました。
しかし、本来の問いは便利なのは誰(?)かでしたよね。このように、単語を見なければなりません。
「ご」(または「お」)の使い方を知るには、「単語に係る」ということを理解することが大切です。
それでは、また。