同調圧力の原因は敬語なのか

日本では同調圧力が強く、思ったことが言えないという話をよく耳にします。そして、その原因の一つとして敬語があるということがセットで言われるのですが、果たして、敬語は同調圧力の原因なのでしょうか。

 

今回は、同調圧力の原因について考えてみたいと思います。

安全な国、日本

日本は安全な国だと言われますし、そう思っている人は多いのではないでしょうか。

実際にどのぐらい安全なのか、アメリカと比較してみましょう。

 

NHK NEWS WEBよれば、2020年、アメリカで起きた殺人は2万1000件余り。うち、銃が使われた割合はおよそ77%。

ひるがえって日本の政府統計によれば、同じ年、日本で起きた殺人は929件。

 

アメリカの人口は日本の3倍としても、殺人事件が20倍とはかなり多い数字です。

それほど安全なこの日本で、多くの人を自由意思に反して行動させる同調圧力とは何なのでしょうか。

思ったことを何でも言うのは良いことか

例えばある人は、上司から「分からないことがあったらいつでも聞いてくれ」と言われ、上司が電話している最中に質問したとしましょう。

 

これがおかしいのは、「いつでも」というのは、何時から何時の間しか聞いてはいけないとは決めないけれども、「今は聞いていいときか、今は聞いてはいけないときか」を自分で判断することが前提として求められているからです。

 

何でも言えることは良いことであるという風潮がありますが、いつでも何でも言っていいという考えは、たしかに敬語の心に反します。

 

自分の意見が役割上も相手からも求められていないところで人に意見を押し付けるのは、ただの出しゃばりに過ぎません。それを敬語は思い出させてくれます。

 

例えば、30分前に出社して皆が働いている文化がある会社に後から入ってきたなら、おかしいと思っても、その会社の文化をまずは受け入れるのが、礼儀というものです。自分が望んで入れてもらった会社だということを忘れるわけにはいきません。

 

そしてこれらを同調圧力とは言いません。

それは逆の立場に立ってみれば明らかです。

 

あなたの家に人を呼んだら土足で上がられ、

「私はいつも家の中では土足だ。なぜあなたの家でだけ私が靴を脱がなければいけないのか分からない。何の権利をもってあなたは私に、靴を脱げと強要するのか」と言われたらどう感じるでしょうか。

家に自分だけが住んでいるなら、自分が我慢しようと考えれば済むかもしれませんが、家には自分の以外の家族もいるとしたら、どうでしょうか。

同調圧力は本当にあるのか

会社には最大1年間の育児休暇が用意されているのに、誰もそれを使おうとしないとしましょう。そしてあなたに子どもが生まれ、その育休を使いたいと。

 

周りで誰も育休を使っている人がいないからといって、正当な権利のあることを行使しないのは同調圧力とは関係ありません。

もしかしたら、あなたと関りのない別の部署ではみんな取っているかもしれないし、会社はせっかく用意したのだから使ってほしいと思っているかもしれません。

 

まずは、下記3点を説明しましょう。

①育休制度があること 

②子どもが生まれたので、使用したいこと 

③自分の周りで誰も使っていないこと(を自分が気にしていること) 

 

そして、使ってもよいか、何か使えない理由があるのかどうか確認してみれば、存外、何の問題もなく希望が通るかもしれませんね。

同調圧力があったらどうするのか

■上司からの圧力

 

では、上司からこんなふうに説得されたらどうでしょう。

 

  「いやぁ、今はまずいなぁ。

   君も知ってのとおり、この部署は別に暇なわけじゃないからね。

   君が1年間いなくなるなら、別の人を雇わざるを得ないよ。

   そうしたら君だって困るだろう。

   それに、Aさんも最近結婚したばかりだ。

   君に育休を認めたら、

   Aさんも育休を使いたいなんて言い出すかもしれないじゃないか。

   君には取ってもらいたいと個人的には思っているんだが、

   君一人の問題ではないんだよ。何とか汲み取ってくれないか。」

 

質問するということは、Yesの返事もNoの返事もありうるということです。可能性の残り50%のほうが現実になったからといってショックを受ける必要はありません。ここに、同調圧力を求める会社があるということが明確になったというだけです。

 

あなたはこれを強化するほうに加担するのか、抗うのか選択ができます。

抗う選択をした場合も、内から変えるのか、外から変えるのか、変え方にもいくつもの選択肢があるでしょう。

 

企業文化を作る側になるまで、自分の中のおかしいという気持ちは抱え続け、「出世して子どもが生まれたら育児休暇が100%取れる会社に変えてやる」と考えるのも一つなら、そんな会社に見切りをつけて、別の会社に転職するのも一つです。

もちろん、育休よりも何よりも、子どものために安定した給料がほしい、と考えて育休を取らないという選択をした場合も、自分の責任において選んだ結果なら、誰を恨む必要も自分を恥じる必要もありません。

 

■同僚からの圧力

別のパターンとして、上司は許可してくれて育休を取得しても、育休制度がなかった頃の人たちから嫌みを言われたり、嫌がらせをされたりするかもしれませんね。

そうしたらあなたは、こんなことなら育休を使いたいなんて言わなければよかったと考えるでしょうか。

もしそうなって、みんなから嫌われると困るからと思うと、自分では使いたいと思っている育休制度を利用しないで遠慮したほうがいいのではないかと思いますか。

 

人は聖人君子ばかりではありません。自分より不遇な状態にあった人たちが、その人たちよりも恵まれた状態にある相手に少しの嫌みを言うことも許されないなら、旧態依然に自らを縛り付けることになります。

 

もちろん、組織内では、共通の目的とそれぞれの役割があり、自分の思うままに何でも言っていいわけではありません。

逆に、個人的な恨みを態度や言葉で表さないようにするのが敬語の働きです。

 

こう考えれば、同調圧力を敬語がもたらしたと考えるのは、お門違いではないでしょうか。

 

来週も、もう少し、同調圧力について考えてみたいと思います。

それでは、また。


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