料理番組などで、自分が作った料理なのに、敬語を使って「おいしく頂きました」などと言うのは誤用ではないかとの問い合わせを頂戴しました。
人が作ったものを「頂く」ならその作った人を立てることになるが、自分で作ったものを食べるのに「頂く」と言ったら、立てる相手は自分自身になりはしないか、というご質問です。
結論から言えば、誤用ではありません。
今回は、それを説明したいと思います。
誤解のもとは「謙譲語」
① プレゼントを頂いた
こう言うとき、プレゼントをくれた人が誰かは分かりませんが、少なくとも目上です。目上だから「頂く」という謙譲語を使うわけです。
② プレゼントを息子から頂いた
これは、誤用です。これでは息子を自分より偉いと言っていることになるからです。
同様に、下記も正解のはずです。
③ 社長の家で、奥様の手料理を頂いた
そうです。たしかに正しい使い方です。
そして、これは誤用のはずです……。
④ 息子の手料理を頂いた
これが、なんと、誤用ではありません。
②も④も「謙譲語」に該当します。
それならば、②が誤用なら、当然④も誤用と考えるのが真っ当な思考です。
これは、敬語を「丁寧語」「尊敬語」「謙譲語」と3つに分けて教えた学校教育が悪いのです。実は、謙譲語には2種類あり、それを、文化庁が出している『敬語の指針』では「謙譲語Ⅰ」「謙譲語Ⅱ」と分けています。
しかし私は、「Ⅰ」「Ⅱ」と言われてもその違いが全く分からないので、この言葉を使いません。
さらに言えば、いつも私のブログをお読みくださっている方ならご存じのとおり、尊敬語、謙譲語という言葉もなるべく使わないようにしています。
ではどうするか。誰を立てるかで敬語を考えます。
立てる相手が違う
先の①「プレゼントを頂いた」の「頂いた」は「もらう」の特定形(特別な形に変化する敬語)で、「もらう」という行為をする本人を立てず、「くれる」相手を立てます。
したがって、②「プレゼントを息子から頂いた」は誤用となります。
同様に③「社長の家で、奥様の手料理を頂いた」の「頂いた」は「食べる」の特定形ですが、これは話の聞き手を立てます。
よって、誤用となるのは④「息子の手料理を頂いた」のように、料理を作ったのが目下かどうかではなく、下記⑤のように聞き手が目下かどうかです。
⑤ てめえら、おれは昼メシに特上寿司を頂いてきたぜ!
(聞き手は目下なのに、聞き手を立てる「頂く」を使っているので誤用)
「いやいや、それは①でも同じでしょ?」と思う人がいるかもしれませんので、確認しておきましょう。
下記⑥の文では親分を立てるために「頂く」が使われており、聞き手が目下かどうかは関係ありません。
⑥ てめえら、これは親分から頂いたもんだからな、ぜってえなくすなよ!
(聞き手は目下だが、「頂く」で立てているのは「くれた相手」なので誤用ではない)
使用上の注意
聞き手を立てるとはいえ、行為者が目上の場合は、さすがに使えません。
例えば、聞き手に失礼のないように話したいという場合であったとしても、下記のような場合は誤用となります。
⑦ お客さまも、どうぞ頂いてください ーーー>誤用
⑧ 部長、社長が食事を頂いていました ーーー>誤用
さらに注意事項ですが、目上目下は状況により変わります。社長だからといって、どんなときでも「頂く」を使ってはいけないかというと、そうとは限りませんので、ご注意ください。
2つの「頂く」を使い分ける
「頂く」には、「もらう」の意味と「食べる」の意味の2つがあり、文法上の使い方も変わります。
注意して使い分けてください。
それでは、また。