敬語は役に立つ文化

文化だからといって、なんでもかんでも守るべきかといったら、そんなことはありません。

 

もし全ての文化を守っていたら、男はチョンマゲで女は文金高島田、竪穴式住居に住んで、社長が死んだらその墓には秘書が生き埋めにされるかもしれません。

それは、ちょっと勘弁してほしいですよね。

 

文化は、時代と共に消えたり生まれたり変化したりします。

それは、人間が変化するからです。

 

「不倫は文化だ」と言った人がいましたが、そんな文化なら今すぐなくなってほしいと思いますし、「昔はよかった」というノスタルジーを動機として文化を守ろうとすると、独善的になりがちです。「昔」がどこを指しているのかが人によって異なりますから。

 

でも、中には守りたい文化もあります。

守るべき文化とは

それでは、守るべき文化とはどんなものでしょうか。
大きくはこの2つではないでしょうか。

①知恵の集積ー役に立つもの
②伝統ー希少価値や美しいもの

①知恵の集積ー役に立つもの

会社なら、仕事における手順が決まっています。その手順は、無駄を省き、ミスがあるたびに見直され、今の形になりました。

もし似たような仕事を命じられたら、その手順を参考にしませんか?
会社にある手順書は、会社の文化です。

スティーブ・ジョブズがいつも黒いタートルネックを着ていたことは有名です。ほかにもっといいものがあるかもしれませんが、それを毎回考えるよりは、これと決めてしまうことで、思考をショートカットできます。
これも、私に言わせれば、ある意味の文化です。
学校の制服も、同じですね。

前回のブログで書いたあいさつは、この「役に立つ文化」のうちの一つです。
自社の文化として決まっているなら、せっかくある文化を壊し、声を掛ける言葉を人とすれ違うたびに悩むより、これまでの文化を活用して思考をショートカットし、別のことを考えたほうがいいですよね。

役に立つ文化とは、もし役に立たなくなれば、消えてしまう文化でもあります。
たとえば、社内公用語が英語になったとしたら、「お疲れさま」も「ご苦労さま」も不要です。

では、今までと全く異なる作業を命じられたときはどうでしょう。
今まで使っていた手順書を参考にすることで、かえって混乱するという状況もあるかもしれません。

何かを考えるときに、ゼロから作り上げるよりも、今までの文化の中に、役に立つものはないかと探してみるほうがいいのではありませんか?
役に立つものがあるなら、使いましょう。
今までは役に立っていたけれど、今は役に立たなくなったのであれば変えましょう。

それだけの話です。
したがって、重要なのは、「何をしたいのか」という目的と、その文化は目的を達成するために「有効なのか」です。

②伝統ー希少価値や美しいもの

たとえば、アイヌ語がもし失われてしまったら、復活させることは至難の業です。録画や録音で資料は残っていても、伝承の仕方なども含めて残すためには、アイヌ語を日常的に使える人を守らなければなりません。

伝統芸能なども同様に、笙の音なんて、正月ぐらいしか聞かないんだから録音しておけばいいんじゃない?とはいきません。
能、狂言、歌舞伎、紙漉き、鵜飼い、漆、織物、染物、刺繍、祭、郷土料理などなど。思いつくままにあげてみましたが、実際には、列挙するだけでこの画面がいっぱいになってしまうぐらい、たくさんありそうです。

伝統の反対は、工業化、商業化、効率化、DX……。
「進める」その陰で消えていくものはないか、それは消えてよいものなのか、少しだけ立ち止まってみることも必要ではないでしょうか。

敬語は、知恵の集積、役に立つ文化

私が、失われゆく敬語をとどめようと奮闘しているのは、敬語が日本の伝統文化だからではありません。

敬語が役に立つ知恵の集積だからです。日本で生まれ育った知恵ですが、日本人に限らず人間なら役立つ知恵だと考えています。

社内で起こるパワハラを防ぐ、家庭で起こる虐待を防ぐ、学校で起こるいじめを防ぐ……。それには、個別の事象へのアプローチももちろん必要ですが、一方でその根本原因への対策も必要ではないでしょうか。
人の心に巣食う、憎しみ、侮蔑、無関心、存在への否定。
そんなものへの対策に、敬語がなり得るのではないか。

私にその能力はありませんが、できるものなら敬語のシステムを諸外国の言葉に組み込んで輸出したい。そう思っています。

それでは、また。

 

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