先週、集金に「ご」を付けるべきかどうかを記事にしたところ、読者の方から下記のお言葉を頂戴しました。
国会の「ご案内のとおり」は未だに意味が分かりません。
なるほど。
「一体、今、何を案内されたんだっけ?」というような状況で言われることがありますよね。
ということで今回は「ご案内のとおり」を取り上げます。
案内された側を立てる「ご案内」
「先ほどのご案内に間違いがありました。申し訳ございません」などと使う場合、案内した行為者ではなく、案内された側を立てます。(<受け手尊重>の使い方)
直前に何かしらの話があり、それを指して「皆さまに当方から案内したとおり」という文脈で「ご案内のとおり」使われるならよいのですが、それがないまま唐突にこの言葉が出てくると、「え、今何か案内されてたっけ???」という感覚に放り込まれるような気がします。
それは、至極当然の感覚です。
ただ、「ご」には他にも立てる方向性があります。
案内する側を立てる「ご案内」
「社長直々のご案内なんて、よほど大切な顧客なんだな」などと使う場合、案内する行為者本人を立てます。この例文でいえば、社長を立てていることを表します。(<主体尊重>の使い方)
そうは言っても、国会で政治家が自分自身を立てるわけはないでしょうから、この使い方と解釈するのは無理があります。
そうすると、案内された側を立てる使い方でも案内する側を立てる使い方でもなく袋小路にはまってしまったような気がします。
ここは視点を変えましょう。
今度は「案内」の意味に着目します。
「案内」の2つの意味
「不案内で申し訳ございません」という言い方を聞いたことがありますか。最近はあまり耳にすることがなくなりましたが、「よく知らなくて申し訳ございません」という意味だ。
これまで説明してきた「ご案内」は「知らせる、導く」などの意味としてですが、実は「案内」には「よく知っている」という意味もあります。
つまり今回取り上げた「ご案内のとおり」とは、知っている本人を立てる<主体尊重>の使い方であり、「もうすでに皆さまがよくご存じのとおり」という意味です。
では、そう言ってくれたらいいのに、と思った人はいませんか。
そのほうが、よほど言葉の意味が分かりやすいではありませんか。
しかし、実際にそう言われたら、こんな反応が返って来たりしないでしょうか。
「いや、そんなことよく知らないぞ!」
その敬語は誰のために使われているのか
敬語は、本来、立てたい相手に敬意を表すために使います。
「ご案内のとおり」という言葉自体に文法上の誤りはありません。
しかし、あえて使うべきでないところに使うなら、表す意味も嫌味や冗談などに変化します。まとめましょう。
①敬意を表す使い方
その話を聞いている主要な人々にとってよく知っている事柄について言う場合、その人々への敬意を表す
②敬意と反するあえてずらした使い方
その話を聞いている主要な人々にとって、決してよく知っている事柄とはいえないことを分かっていながら使うなら、そこは既に共有されているものとしてしまうことによって議論の対象にしたくないという意図が隠されているかもしれない
敬語を知り、敬意のない人たちから身を守る
加えて言えば、敬意を込めた敬語の使い方を知っていることにより、敬語を使っていないときでも敬意と反する言葉遣いに気付きやすくなります。
例えば「なぜ〇〇は▽▽するのか」というような題名がついた本が流行りましたが、この題名を付けた人は、見た人に「え!?〇〇は▽▽するんだ!知らなかった。なぜだろう」と思わせようとしてはいないでしょうか。「なぜだろう」と注意を先へ飛ばすことで「〇〇は▽▽する」という事実を無批判に受け入れさせようとする意図が透けて見えます。
もちろんこれは、特定の本の中身について云々言うものではありません。
他にも例はあります。「一度、詳しくお話を聞いていただけませんか?」と質問してくれれ「嫌です」と答えやすいものですが、「平日と休日だとどちらがご都合よいでしょう?」という質問を先にされてから「ではその日に伺いたいのですが、よろしいでしょうか」と畳みかけられれば、人間は断りづらくなります。
ちょっと、話を広げすぎてしまったでしょうか。
表面上の敬語の知識しかないと、敬語を沢山使っていれば自分に敬意を払ってくれているものと勘違いしてしまいがちです。しかし、それでは相手の思うつぼ、ということもあるかもしれません。
相手の敬意を読み取りましょう。
そのためにも敬語を知っていただきたいと思います。
それでは、また。