敬語「お持ち帰りいただけます」を文法的に解説します

油そばはお好きですか?
え、もうそろそろ冷やし中華のほうがいい?
いえいえ、そんなことを言わずに召し上がってください。
だって、看板がこんなに素敵なんですもの。

あ?反射で見づらい?

そこは申し訳ない。

 

興奮して取り急ぎ写真を撮ったので、そこまで気にしていませんでした。

 

何をそんなに興奮したかといえば、もちろん敬語です。

「お持ち帰りできます」なんて失礼な看板が多い中、こちらのお店では正しい敬語で道行く人にご案内しています。
素晴らしいではありませんか。

何か省略されてません?

しかし中には、この言葉を見て落ち着かない人もいるかもしれません。

それは恐らく「て」が無いからです。

 

例えば「持っていただく」「帰っていただく」というように、「いただく」の前には、通常「て」が付きます。(この「て」は接続助詞の一つです)

 

この「て」が無いと、「持ついただく」「帰りいただく」というようになんとも不自然な日本語になってしまいます。

だからといって、「お持ち帰りいただく」に「て」を付けようとして「持ち帰りしていただく」と言ってはなりませんよ。これぞまさしく、せっかく描いた蛇の絵に足を付けるようなもの、誤った敬語の代表例になってしまうのです。

敬語の特別ルール

敬語には、敬語だけに許される特別ルールがあります。

「いただく」の前に「て」を付けなくてもよいのもその一つ。

 

今回の「持ち帰り」に付いた「お」が立てているのは、持ち帰るという行為を行うその人(行為主体)です。

この行為主体を立てる「お」(もしくは「ご」)が付いているときだけ、「いただく」の前の「て」はなくても構いません

 

例えば

「お持ちいただく」

「お帰りいただく」

という感じです。

 

では、なくても構わないということは、あってもよいのでしょうか。

その通りです。

省略しないこともできます

正しく付けるとこうなります。

「お持ちになっていただく」

「お帰りになっていただく」

「お持ち帰りになっていただく」

 

もちろん、どれも正しい敬語ですが、普段使いするには少しばかりうっとうしくないですか?

せっかく人を立てる敬語を使っているのに、敬語を使ったせいでうっとうしい印象になってしまっては本末転倒というもの。

そこで、省いてもいいですよ、というルールになっているのです。

 

それでは、また。