おじいさまが煮込まれた肉鍋は意外とおいしかった

いやぁ、どんな味なんでしょうね。
おじいさまの味なんて、想像がつきませんね。
おじいさまが呑兵衛なら、お鍋も呑兵衛の味がするんでしょうか。

 

え?おぞましい?残酷?

だって、おふくろの味があるなら、おじいさまの味があってもおかしくありませんよね?


何を言っているのかというと、表題は、私の大好きな敬語学者である萩野 貞樹先生が考えた例文です。(私の記憶で書いているので、実際の文章とは少し違うかもしれません)

 

先生は、敬語の受身形を嫌っていました。

受身形とは

その動詞の行為者を高めるもっとも簡単な敬語で「先生が書かれる」「お客さまが買われた」などを指します。
「顔にマジックで書かれた」「あの子は金持ちに買われた」のような受け身と全く同じ形です。
日本語を母語とする人で、受身形が作れない人はまずいません。
したがって、もっとも簡単な(=敬意の低い)敬語といえます。

複数の意味を持つ=誤解を招きやすい

受身形がその名の示す通り受け身の意味を表すのは上で見た通りですが、実際には他にも意味を持ちます。

 

「先輩、お昼は食べられますか?」と言えば「食べますか」の敬意表現ですが、「これはまだ食べられますか?」と聞けば可能の意味です。

 

「部長はどう思われますか?」と言えば「思いますか」の敬意表現ですが、「無性にあの人のことが思われる」ならば自発(自分の意志とは関係なく勝手に)の意味です。

 

例文では意味が伝わるように文章を作りましたが、実際には言葉が省かれることが多くあります。
そのような場合、「受け身」「可能」「自発」「尊敬」と四つの意味を持つ言葉を使っては誤解が生じても仕方ありません。

敬意も低く誤解も生じやすい受身形を敬語として使うなと先生は伝えたくて、表題の例文を考えたのです。

なんと言うべきか

「煮込む」という動詞を敬語の公式に当てはめれば「お煮込みになる」です。

 

ただ、これは文章で読むならば支障ないかもしれませんが、会話で「オニコミニナル」では意味が分かりづらいでしょうから「お作りになる」「料理なさる」などと言いかえたほうがよいでしょう。

 

それでは、また。


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