不適切な「歌わせていただきます」を文法的に解説します#気になる敬語

6月17日のブログにて「お持ち帰りいただけます」は常に正しいか?をテーマに記事を書きました。それに対し、読者の方より以下のお話を伺いました。

 

職場で流れているラジオから聞こえてくる気になる言葉遣いがよく話題になるというのです。それが、「出演させていただきました」「歌わせていただきます」のような「いただく」の使い方だそうです。読者の方は「出演しました」「歌います」でいいのではないかとお考えなのだそうです。

 

そこで今回は、「歌わせていただきます」にスポットを当てて、なぜ読者の方が気になったのか、文法的に解き明かしていきます。

「頂く」とは

「頂く」を無敬語にすると「もらう」です。

この言葉の基本の意味は「授受」です。AからBへ所有権が移るということです。

 

そして、基本の意味のほかに、派生した意味として、以前のブログでは、この「もらう」に許可の意味(①)があるとお伝えしましたが、もう一つ恩恵の意味(②)も込められています。

それが敬語になることで、誰からもらったのか、その対象を立てる意味(③)も加わります。

「~ていただく」とは

i ) プレゼントを「頂く」

ii) 出演させて「いただく」

 

i の使い方を本動詞といいます。

ii の使い方を補助動詞といいます。

ii の例では、何も物は移動しておらず、所有権も移っていません。基本の意味はなく、「~ていただく」と別の動詞につなげることで、派生した意味だけを加える役目を持ちます。

※区別のため、本動詞の場合は漢字で、補助動詞の場合は平仮名で書きます

それでは、ここまでの知識を踏まえて、読者の方はじめ同僚の皆さまの話題に上がる「歌わせていただきます」を考えてみましょう。

「歌わせていただきます」とは

上記と説明にしたがって、三つある意味を一つずつ見ていきましょう。

 

①許可

歌手が出しゃばりで歌っているわけではなく、正式な許可のもとで歌っているということを言いたいのでしょう。

 

②恩恵

そしてそれがありがたいことであり、歌う自分にとっても嬉しいことであると言いたいのでしょう。

 

③誰を立てているのか

歌手に歌わせているのは、プロデューサーか何か分かりませんが、まぁラジオ局側の人間です。その人を立てていることになります。

 

この三つを見ると、なぜ聞いている側が「歌います」でいいと感じるかがお分かりいただけるのではないでしょうか。

 

なぜリスナーがプロデューサーを立てる話を聞かされなくてはならないのか疑問に感じませんか。そういう話は公共の電波ではなく、番組の前後でやってくださいなという話なのです。

この内容を言葉にしてみると

以上を踏まえ、ラジオに出演している歌手が歌う前に「歌わせていただきます」ということがどういう意味になるかを「いただく」を使わずに表現してみましょう。


ただいまから私めがプロデューサー様の許可のもとで歌います。

このような機会を与えてくださるプロデューサー様はなんと素晴らしい方でしょう。心より感謝申し上げます。


いかがでしょうか。

気になっていた点はすっきりなさいましたでしょうか。

もちろん、正しい言い方は「出演しました」「歌います」で合っていますよ。

 

それでは、また。