以前のブログにて、敬意も低く誤解も生じやすい受身形は敬語としてなるべく避けたほうがよいということを書きました。
それならば、なぜこの受身形が広がってしまったのでしょうか。
それは、『これからの敬語』によります。
平明・簡素な新しい敬語法としての『これからの敬語』
『これからの敬語』とは、昭和27年に国語審議会が文部大臣に上げた建議です。
この建議にはいくつかの目的があり、相互尊重などこれまでの封建的な敬語からの離脱を促す点など、良い点もあります。ただ問題が、論旨の一つである「これからはこうあるほうが望ましいと思われる形」として「平明・簡素な新しい敬語法」を挙げたことです。
下記の、動作を表す言葉をご覧ください。
6 動作のことば
以下が、『これからの敬語』の『6 動作のことば』です。
「簡単」という理由から「将来性がある」として、国として受身形を推奨してしまったことが問題でした。微妙な上下関係を表すのに「簡単」な敬語だけでは無理があります。
Ⅱの「おーになる」の型もあるにはありますが、簡単なほうを国が推奨しているのにわざわざ難しいほうを使うことはありません。結局Ⅱの型を使いこなせない人が多い現在につながってしまいました。
それでも、受身形を使っている分には間違ってはいません。
しかし、受身形だけで事足りるのでしょうか。敬語は「簡単」になっても、話す内容は「簡単」にはなりません。そこに無理が生じました。
受身形だけでは日常会話ができない
お客さまに向かって、上司に向かって、受身形だけで会話をするのは不自然です。
お客さまに向かって「配達はいつを希望されますか」、
上司に向かって「新人にこの件は説明されましたか」、
では、少し敬意が足りなくて困るのです。
そこで本来なら「ご希望になりますか」「ご説明になりましたか」とⅡ型を使うべきところですが、身についていないものは使えません。身についているのはⅠ型だけですからⅠ型でなんとかしようともがきます。
その結果が受身形に「ご」を加えるという敬意の足し方(誤用)です。
それを不等号を使って表すと下記のようになります。
希望されますか < ご希望されますか
説明されましたか < ご説明されましたか
もちろん、このような使い方は間違いであると『これからの敬語』の4章の(3)の中には書かれているのですが、Ⅰ型の隣にあるⅡ型も忘れられてしまったのに、そんな細かいところが思い出されることはありませんでした。
このように『これからの敬語』で受身形を推奨したことが、現在の敬語の乱れの一因になっているのです。
どうぞ、上図のⅡ型も取り入れて会話をされてください。
それではまた。