この注意書きを見て、どこに貼られていたと想像しますか?
例えば、(私は行ったことがありませんが)ガールズバーのカウンターに貼られていたとしたら、それほど気にならなかったかもしれません。
お手触れ?
実は、デパートで撮影した注意書きです。
先日デパートへ行くと、かわいらしいキャラクターの人形が展示されていました。フォトスポットとして用意されたそこに貼られていた注意書きがこちらです。
「進入禁止」はいいでしょう。
しかし、「お手触れ禁止」は初めて見ました。
そもそも「手触れ」という言葉があるのでしょうか。
これを書いた人は、違和感を覚えなかったのでしょうか。
造語を敬語にしない
敬語は独創性や芸術性を競う言葉ではありません。
何かを分かってもらいたいときや行ってもらいたいときなどに、敬意とともに伝えることで円滑なコミュニケーションを図るための道具です。
コミュニケーションを図るための道具であれば、勝手に言葉を作ってはいけません。
分かればそれでいいではないかと考えるのであれば、子どもは「ん~!ジューチュ!」と言えればそれでよく、「ジュースが欲しいの?」「ん」「じゃぁ、ジュースちょうだいって言ってごらん」などと教わる必要は無くなってしまいます。
社内や専門業界内において、専門用語や業界用語が使われることはあるでしょうし、それを否定するつもりはありません。
しかし一般に向けた文言で、しかも相手が客という目上に対して自分が勝手に作った言葉を使うのは、それを通用する言葉として認めるよう強要していることになります。
それを敬意とは呼べません。
本当は「触れないでください」と書きたかったのかもしれません。しかし、それでは命令になってしまうので失礼だというような議論でも行われたのでしょうか。
誠に残念です。
それでは、また。
追記(2022年8月16日)
読者の方より「手触れ禁止」と銘打ったイラスト素材が業者向けにあるのだと教えていただきました。業者同士や身内で話す分には敬意よりも効率化が重視され、「通じればいいや」という言葉遣いも許容されます。
たとえば同僚や気心の知れた関係なら「明日の朝までに依頼したいことがあるのですがよろしいですか?」とは言わずに、「朝一でヨロ!」のほうがいいということもありますよね。それでコミュニケーションが円滑に取れるなら、何も正しい日本語をつかうべきだと目くじらを立てる必要はありません。
今回は、この業界用語(身内言葉)を一般的な言葉だと勘違いしてしまったか、一般的ではないにせよ、人が使っているのだから自分に責任はないと考えてしまったか、どちらかが原因かもしれません。
安易に「お」をくっつける前に、少し自分で「高くても品質が保証されている安心感を求めてお客さまがいらっしゃるデパートにとって、これがふさわしい言葉だろうか」と考えてみてほしかったものです。