これは、敬語講座を開いたときの受講生からの質問です。
間違いなら相手が誰であろうと正したほうがいいというのは、一つの正論かもしれませんが、これは敬語の考え方に反します。
場の目的は何か
たとえば、取引先と対面でやりとりした際に、「御社ではどのようにお考えですか?」と言えば正しい敬語ですが、一般名詞に「さま」を付けて「会社さまとしてはどのようにお考えですか?」と言ったり、人名でない固有名詞に「さま」を付けて「敬語教室さまとしてはどのようにお考えですか?」などと言ったりするのは間違いです。
間違いであっても、それを知らずに使っている取引先に向かって指摘するのは、「失礼ですが」という言葉を添えても補えないほど失礼です。相手が上司であっても、これと同様です。
それは、この話し合いの場が、敬語について確認する目的で設定された場面ではないからです。
なぜ正しい敬語を知る必要があるのか
相手が間違った敬語を使っても気付かぬ振りをするのがマナーなら、なぜ正しい敬語を知る必要があるのでしょうか。
① 敬語を知っている人と円滑にコミュニケーションをするためです。先の例に挙げたような敬語を知らない人だけを相手にするつもりなら、敬語を学ぶ必要はないでしょう。しかし、敬語を知っている人からしてみたら、注意はしないけれども気付いているのです。それを恥ずかしいと思うか、また、いちいち不快な思いをさせて相手に迷惑をかけていると思うかということです。
② 正しい敬語を使えば、その人の見ている人間関係を見ているとおりに表現することができるからです。これは、聞き手が敬語を使いこなせない人であってもちゃんと伝わります。そして、敬語を知っている人であれば、なおのこと、言葉遣いから話し手が人間関係をどう捉えているかを見ようとします。
敬語は単なるツール
敬語は一つのツールに過ぎません。
個人相手の営業なら、敬語を使わないほうが親しくなれてよいという選択肢もあるでしょう。では、企業の経営層に対して、そのやり方で営業を掛けられるでしょうか。
それは単にかっこいいとかそういうことではありません。きちんと建前を理解しているかということを示すことになるのです。
必要に応じて敬語を使うということは、不要な敬語は使わないということも含まれます。
上司との関係はどうあるべきか
あなたが部下であるならば、上司は指示を出し、あなたは従う立場にあることでしょう。そして、上司から学ぶべきなにがしかがあることでしょう。
それを果たすことに専念すべきです。上司は、部下が指導する対象ではありません。
やがて、あなたが多くを学んで上司になったとき、文法や正誤だけでなく敬意まで含めて敬語を指導できる上司になってほしいと思います。
そして、もしあなたが上司なら、自分より知識のある部下がいることをチャンスと思い、進んで部下に教えを乞うことのできる人であってほしいと思います。
それでは、また。