おかしな敬語「待たさせていただきます」を文法的に解説します#気になる敬語

突然ですが、クイズです。

「見せていただく」「見させていただく」

 

あなたはどちらが正しい言葉遣いだと思いますか?


 

とある方から、「待たさせていただく」「行かさせていただく」などの『さ入れ言葉』は「~させていただく」を付けようとした誤用なのではないか、とのご意見を頂きました。

 

私も、そのとおりだと思います。

とりあえず「~させていただく」を付けておけば敬語の体裁が整えられると思っている人や、果ては動詞に「~させていただく」を付けるのが謙譲語だと教えているところまであって、まさに目を覆いたくなるような状況です。

たとえば「手伝わせてください」でいいところを「手伝わさせていただけませんか?」と言うなら、それは過剰敬語でもあり、「いただく」の使い方も適切とはいえませんが、今回は『さ入れ言葉』の問題に絞ってご説明します。

『さ入れ言葉』とは

使役の助動詞には「せる」と「させる」がありますが、『さ入れ言葉』とは「せる」を使うべきところに「させる」を使ってしまうことです。

 

■正しい使役の例

・待たせる

・行かせる

・手伝わせる

 

■『さ入れ言葉』の例(=誤用)

・待たせる

・行かせる

・手伝わせる

※太字にした「さ」が本来不要

 

実はここに挙げた例の動詞は、全て五段活用です。

言い換えれば、『さ入れ言葉』とは五段活用の動詞に「させる」をつなげてしまうことです。

 

五段活用なんていっても、普通は覚えていませんよね。

なので、五段活用の見分け方と『さ入れ言葉』を防ぐ方法をお伝えします。

「ない」をつけて「あ」段なら「さ」は入れない

五段活用とは、「ない」につなげて否定形にしたときに、「ない」の直前が「あ」の段になる動詞のことです。

 

例に挙げた動詞をもう一度使って「ない」につなげてみます。

 

・待ない

・行ない

・手伝ない

全て太字部分が「あ」の段になっているので、五段活用だと分かりますね。

 

実は、五段活用以外はの動詞を使役にするときは、すべて「~させる」になるのです。

 

例)

・書く (五段活用)   = 書かせる

・起きる(上一段活用)  = 起きせる

・食べる(下一段活用)  = 食べせる

・する (サ行変格活用) = せる

・来る (カ行変格活用) = 来さ

 

動詞は、上に挙げた5種類しかありませんが、その中の1種類だけが仲間外れです。これでは確かに他に引きずられて五段活用も「~させて」と言いたくなりそうです。※サ行変格活用については、「する」の未然形に「せる」をつなげるというのが文法的には正確な説明かもしれませんが、五段活用以外は「させる」を使うと覚えていたほうが分かりやすいと思います

 

間違えて「さ入れ言葉」を使わないようにするには、
①動詞に「ない」をつけて
②「あ」段なら
③「さ」は入れない
ようにしましょう。

クイズの答え

最初に、「見せていただく」と「見させていただく」のどちらが正しい言葉遣いかと質問しました。

 

ここまでを読んで、「見ない」(=「ない」の直前が「い」の段だから五段活用ではない)だから「さ」を入れて「見させていただく」が正しいと考えたあなた、正解です!

 

でも、「何それ、見せて見せて!」って女の子同士の会話に出てきそうですよね。実は「見せ(て)」は「見せる」という(「見る」とは別の)動詞の連用形なので、使役の助動詞である「せる」も「させる」も使っていません。

 したがって、「見せていただく」も正しい気がするなぁ、と思ったあなた、正解です!

 

いやぁ、日本語って難しいですね。

 

それでは、また。