「致します」と「いたします」の使い分け

先日、二重敬語ならぬ四重敬語を見つけ、それを先週の記事に致しました。

その記事を読んだ方から、「致します」と「いたします」の使い分けを教えてほしいとのご要望を頂戴しましたので、お答えします。

漢字と平仮名の使い分けについて、特に意識していないという方も多いでしょうし、いつも迷うという方もいらっしゃるかもしれません。

 

結論からいえば、「補助動詞は平仮名」というだけですので、それで分かる方はこれで終わりです。

 

ここからの記事は、補助動詞なんて言われても分からない!なぜそうなるのか気になる!という方に向けて書きました。

理由も理論も興味ないという方は、まとめだけご覧くださっても大丈夫です。

漢字と平仮名を使い分ける指針

大きな指針としては、次の二つがあります。

 

①常用漢字表

常用漢字表』は、文化庁が「一般の社会生活において現代の国語を書き表すための漢字使用の目安」として決めたもの

 

②公用文における漢字使用について

公用文における漢字使用について』は、①で挙げた常用漢字表を使用するにあたっての留意点を書いたもの

指針の運用

自分しか見ない日記であれば気にする必要はありませんが、新聞などの公的なものは基本、この二つに従います。あえて「基本」、と書いたのは、実際の文章を限られた表に当てはめるのは難しく、対策として新聞各社がウチはこうする、と定めた辞書を作らざるを得ないのが実情だからです。

 

なので、別に新聞各社の表記に相違があったとしても、どこが間違っているということではなく、解釈の余地があるというふうにご理解ください。

 

それでは本題の「致します」と「いたします」ですが、これは『常用漢字表』に掲載されている漢字です。であればいつ何時でも漢字表記にすればよさそうなものですが、そうもまいりません。

メインの動詞に敬意を添える敬語の使い方

公用文における漢字使用について』を見てみましょう。(3頁より抜粋)

「次のような語句」という曖昧な書き方なので困るわけですが、例を見てみると、「報告していただく」「話してください」など、私の専門分野である敬語があるのがお分かりかと思います。

 

だから、敬語は平仮名で書けばいいんだな、と早合点しないでください。

 

ここで使われているのは、全てメインの動詞に敬意を添える敬語の使い方です。


「報告する」「話せ」でも間違いではないが、人間関係を表すには「…ていただく」「…てください」のほうが明確である


そんな使い方です。

(例文に選ぶにしても、「話していただく」「報告してください」と逆にしたほうが自然なのにと思うのですが、それはまた別のお話)

「致します」と「…ていたします」

これを「致します」に当てはめると、こうなりますね。

 

◆「私が致します」(漢字表記)

◆「私が十分注意していたします」(平仮名表記……?)

 

あら?おかしいですね。

 

「て」の後に使われてはいますが、そういうことではないはずです。

これは、「注意する」という単語をメインの動詞としているわけではなく、どのように「致す」のかを「注意する」で修飾している関係です。

 

これは、「致します」がちょっと特殊な敬語だからなんですね。

メインの動詞を「持つ」としたときに、「いただく」も「ください」もつなげることができます。

 例)「持っていただく」「持ってください」

 

それに対し、「致します」だけはつながりません。

 ※「持っていたします」(とは言えない)

  

その問題を解消するのが、敬語にだけ許された特別なルールです。

「て」を省いてよい敬語だけのお約束

「持っいただく」よりも敬度の高い言い方として「お持ちいただく」があります。

 

ほら! 「て」が消えました。

でも「いただく」がメインの動詞に敬意を添えているという働きは変わりません。

これをもって「致します」をもう一度試してみましょう。

 

 「お持ちいたします」

 

「て」は省かれていますが、メインの動詞に敬意を添える意味で「いたします」が使われています。

こういうときは、平仮名にしましょう。

まとめ

最後に覚えてほしいことを簡単にまとめます。

 

メインの動詞として使われているときは漢字。

例)私が致します

 

メインの動詞に敬意を添える意味で使われているときは平仮名。

例)お持ちいたします

 

 

それではまた。