前回は「さま」と「さん」の使い分けとして、基本ルールとしての敬度(敬意の度合い)の違いと、美化語としての使い方について説明しました。
そこで今回は、もう一つバリエーションとして、嫌味として使う「様」も取り上げておこうと思います。
たとえば、浮気がばれて離婚され、慰謝料も請求された社長がいたとしましょう。でも浮気相手に貢いだせいで慰謝料が払えません。そんなとき、取引先の企業が払ってくれました。この後、社長と取引先企業の関係性はどうなるでしょう。
本来は取引先が「下請け」と呼ばれる企業であっても、なんなら「子会社」であっても、社長は頭が上がらなくなります。その取引先から「社長、なんとかなりませんか」とお願いされれば社長はやらざるを得ません。この取引先を、A社としておきましょう。
こんなとき、社長は秘密がばれないようにと思って必死に立ち回っているわけですが、実際には誰も面と向かっては言わないだけで周知の事実だったりします。すると、こんな言葉を使うのではないでしょうか。
「A社様の言うことじゃ、社長も聞くしかないよな」
会社は人ではありませんから、本来は敬称は付けられません。そんな知識がなかったとしても、そもそも相手は目下なので「様」を付けるべきではないと分かっています。それでも使うこの「様」には、「そんなこと言ったって、実質目上じゃないか」という嫌味が込められています。他の文脈では「A社様」とは言わないこともこれを裏付けます。もちろんこれは、敬意を表す"敬語”ではありません。
おまけ
この「様」の使い方のせいで、個人的にはとても使いづらい言葉があります。それが「ご愁傷様」です。
この言葉は嫌味として使われることがあり、悲しみに暮れていて傷つきやすくなっている状態の人にこの言葉を投げかけたときに、万が一にも嫌味に取られたらどうしよう、と思うとためらわれます。
それでは、また。