先日のブログで、「おやつ」や「おにぎり」など、「お」を付けることで意味が変わる言葉があるとお伝えしたところ、その記事を読んだ読者の方から、「お手」という言葉も、人に向かって「お手を拝借」と言うときと、犬に向かって「お手!」と言うときでは意味が変わるとご指摘を頂きました。
ここで、では「お手」とはそもそもどういう意味なのか、という問いを立てるのは不毛です。読者の方の言うように、文脈によって意味が変わるからです。
そこで今回は、「御」が持つ多様な意味について分かりやすく例示していこうと思います。
※お時間のある方は、2時間目:接頭辞「お」「ご」もご参照ください。
「御」が持つ多様な意味
「御」は言葉の冒頭に付くので接頭辞といいます。
※読み方は後に続く単語によって「お」だったり「ご」だったり「み」だったり「おん」だったり「ぎょ」だったりします。そこで以降は漢字の「御」で統一します。
この接頭辞「御」は使用方法が多岐にわたるので、「この後に続く言葉(単語)は今回特別な使い方をしますよ、という合図を示す記号である」というぐらいに思っておくといいでしょう。
特別な使い方といっても、ルールが全くないわけではありません。
大きく以下の3つにまとめられます。
①主体を立てる
その言葉(単語)が所属する人を立てる
②受け手を立てる(主体を立てない)
その言葉(単語)が所属する人ではなく、その言葉(単語)が向かう先を立てる
③誰も立てない=美化語
「御」は付いているものの、誰も立てない
ここでいう「主体」「受け手」というのが分かりづらいので、(逆に言えばこれさえ分かってしまえばほぼ敬語なんて分かったようなものなのですが)まずは、読者の方が挙げてくださった例を見てみましょう。
「御手」を例として
「御手をどうぞ」
この場合の「御(=特別な)手」がどう特別かといえば、「尊い手」というほどの意味になります。なぜただの手が尊いかといえば、「尊い方の手」だからです。したがって「御手」という言葉を使うことによって、「手」の持ち主を立てています。これが、「主体を立てる使い方」です。
ワンコに向かって言う「御手!」
この場合、犬を立ててはいません。他に立てる人もいません。
そしてこの場合の「御(=特別な)手」は、「出した手に前足を乗せること、またそうしなさいという命令」というほどの意味でしょう。
「御」の持つ3つの使い方を、比較しながら理解していただくために、さらに別の例を使いましょう。
「御手紙」を例として
主体を立てる「御」の例文)
尊敬する先生から届いた「御手紙」
この場合の「御(=特別な)手紙」がどう特別かといえば「尊い手紙」というほどの意味になります。なぜただの手紙が尊いかといえば、「尊い先生が書いた手紙」だからです。したがって「御手紙」という言葉を使うことによって、「手紙」の書き主を立てています。これが、「主体を立てる使い方」です。
受け手を立てる例文)
尊敬する先生へ書いた「御手紙」
この場合、手紙を書いた主体を立てていません。
この場合の「御(=特別な)手紙」がどう特別かといえば「畏れ多くも心を込めて書いた手紙」というほどの意味になります。したがって「御手紙」という言葉を使うことによって、「手紙」を受け取る人を立てています。これが、「受け手を立てる使い方」です。
誰も立てない例文)
未来の自分に宛てて「御手紙」を書いた
この場合、手紙を書くのも読むのも自分です。
この場合の「御(=特別な)手紙」がどう特別かといえば「普通の信書とは異なり、自分にとって特別な意味を持つ手紙」というほどの意味になります。したがって「御手紙」という言葉を使うことによって誰も立ててはいません。
ここでの意味としては「私にとって特別な意味を持つ手紙💛」というほどの意味でしょうか。
シンプルだからこそ何役もこなす
このようにいくつもの意味を持つ「御」から、私は縁側を連想します。
縁側は、柿を干す準備をする作業場にもなります。
庭を見ながら本を読めば、書斎になります。
やってきた人にお茶を出してもてなせば、客間になります。
ただ板が貼ってあるシンプルな造りだからこそ、どんな役目でも果たしてくれる、それが縁側というものではないでしょうか。
同様に、たった1文字だからこそ色んな役目を持つ「御」に日本らしさを感じるのです。
それでは、また。