「もしよかったら、これもらって来てください」②~敬度を考える

先週、表題の台詞について正しく言葉を伝えるためには敬語が足りていないという話をしました。今週はその続きです。

 

この台詞だけを読んで、どんなシチュエーションを想像するでしょうか。
たぶん、人によって色んな状況が想定できると思いますが、要件は大きく3つあります。


Ⅰ.どこで言われたか~「場」

家庭の中での台詞なのか、それともおじいちゃんのお葬式の場で言われたのか、初めて入った居酒屋の席上か、それが職場なら勤務時間中なのか昼休み中なのか。

Ⅱ.誰から言われたか~「立場」

相手は自分よりも目上なのか目下なのか対等なのか、親しい間柄なのかあまり親しくない間柄なのか。

Ⅲ.「これ」とは何か~「恩恵 VS. 不利益」

 

「恩恵 VS. 不利益」とは、片方が受ける恩恵の大きさと他方が受ける不利益の大きさ。「これ」が自分にとってプラスになる場合、相手にはどれほどマイナスを与えるものなのか。逆の場合や、双方ともに嬉しくはないけれど、会社にとって必要なものという場合もあり得る。

 


敬語は、この3要件を踏まえて選びます。これを敬度と言います。

敬度

敬度とは、漢字からも分かるように、敬意の度合いという意味です。では、この敬度をどのように決めるかというのが先の3要素であり、「」と「立場」と「恩恵 VS. 不利益」によって変わります。

 

敬語は、この敬度を表すためのツールの一つです。敬語をいくら使ったとしても、敬度に合った敬語を選ばないと、失礼です。これは、不足している場合だけでなく、過剰であっても慇懃無礼と言われるように失礼にあたります。

 

おそらく前回の記事を読んでくださった方の多くは、Ⅲから判断して、この言い方は失礼だと感じたのではないでしょうか。そこで、今回はⅢにフォーカスして考えてまいりましょう。

 

敬度は敬語だけではなく、言い方でも変わります。

特に人を動かす際の敬度を表す言い方を大雑把に示すと、下記の通りです。

 

■言い方の敬度

直接的 < 肯定的 < 否定的 < 曖昧

(右へ行くほど敬度が高い)

 

これだと分かりづらいと思うので、例を挙げます。

例えば、あなたは水が欲しいとします。相手は水を持っています。そのときの言い方です。敬語は全く使っていませんが、下へ行くほど敬度の高い言い方です。

(あなたの水を)もらうね!

< もらっていい?

< もらうわけにいかないわよね? 

< あぁ、私のお水なくなっちゃった……

いくつかの言い方を挙げましたが、下へ行くほど断られる前提で話しています。最後は無視されてもよい前提で話しています。つまり、依頼をするときの敬度とは、相手の断りやすさです。敬意の大きな要素の一つは相手の主体性を尊重する行為であり、単なる気持ちではありません。

「恩恵 VS.不利益」を考える

表題の言葉には、前回も書いた通り最低限の敬語しか使われていません。これはⅢから考えるなら、発話者が恩恵を与える側であり、聞き手が恩恵を受ける側であれば適切だったかもしれません。
しかし実際には、恩恵を受けるのは後輩でした。自身はイベント会場に足を運ぶこともなく、欲しかったCDを手に入れることができました。
一方で先輩には、何の用もないのに混雑したイベント会場へ出向くという時間と労力の不利益しかありません。

ならば、同じ依頼するにしても、もっと高い敬度の言葉が必要でした。

なんと言えばよかったか

敬語に唯一絶対の正解はありません。なので、あくまで参考程度にご覧ください。

 

先輩、ご足労をおかけするお願いで申し訳ないのですが、もし○○へ行く用事がおありだったら、ついでにこのCDを受け取ってきていただくわけにはいかないでしょうか。

 

いかがでしょうか。
どうぞ感想をお聞かせください。

 

※実は個人的には、最も大きな問題は今回取り上げたⅢの「恩恵」VS「不利益」よりもⅡの立場にあると思っています。次週はそれについて考えてまいります。

 

それでは、また。