表題の言葉は、知っている人は日常的に使うので気になることもないと思うのですが、知らなかった私はかなり驚きました。
インターネットで「ご安全に」と検索すると、予測で「おかしい」などの文字が付いてきます。どうも気になるのは私だけではなさそうです。
「ご安全に」とは
私同様、この言葉を知らない人もいるのではないでしょうか。
「ご安全に」とは、現在、作業現場において作業の安全を願って広く使われているあいさつのようで、下記のデータベースを見ると、語源はドイツの鉱山で使われていた「ご無事で (グリユックアウフ)」だそうです。
なぜ、ドイツで言われていたように「ご無事に」ではいけなかったんでしょうか。また、なぜ「ご安全に」はおかしいと感じるのでしょうか。
文法的な問題点~敬語は人にしか使えない
先に、「ご安全に」とは「作業の安全」を願うあいさつと書きました。これに違和感のある人はいないと思います。何を言いたいかというと、「安全」は、基本として人に係る言葉ではないということです。
たとえば愛する家族が自然災害や事故に遭ったとき、電話をかけてまず確認するのは「無事か!?」ということであり、安全かどうかではありません。「無事か!?」と聞けばそれだけで主語は電話を受け、質問されている本人だと分かります。質問された人自身に、ケガや病気がないかを確認しているのです。そして、もし家族が親など目上であれば「ご無事ですか?」と敬語が使えます。
一方で、もし「安全か!?」とだけ質問するとしたら、それは質問された人自身にケガがあろうとなかろうと関係ありません。質問に答えるなら「あぁ、避難所まで来たよ。腕の骨が折れたから治療してもらってる」というような返答ができます。つまりこの場合、安全なのは「場所」です。したがって相手が親など目上であったとしても、「ご安全ですか?」とはならず、「そこは安全ですか?」「安全な場所にいらっしゃいますか?」という言葉遣いになります。
このように、敬語としての「ご」は人にしか付きませんので、「ご安全に」という使い方に対して、多くの人が違和感を覚えるのです。
もし、人に対して「安全」を使うとどうなるでしょうか。
「安全」の対義語は「危険」ですから、「あの人は安全だ」というとき、意味することは危険ではないということです。スパイ映画のような状況で使われるなら、「あの人はあなたに危害を及ぼすことはない」もしくは「あの人は信用できる」「あの人は口が堅い」という意味になり、「ご安全に」が意図しているニュアンスとは大きく食い違っていることが分かるでしょう。
業界用語としての「ご安全に!」
では、人以外に対しても付ける美化語としての「ご」ならどうでしょうか。
「ご」(接く言葉によっては「お」だったり「み」だったりします)は、「これから特別な使い方をしますよ」という記号として使われます。その中で、敬意を含まなかったり、人以外に使われたりするものを美化語といいます。
そこで、この言葉を美化語として解釈してみましょう。「あなたのご無事」ではなく、「あなたも自分も含めた、仕事仲間全員の安全」「現場の安全」「重機類の安全な操作」「見知らぬ通行人の安全」そんなものをひっくるめているという解釈が成立しそうです。
おそらくは、職場で「ご安全に」と日常的に言っている人も、家庭や友人に向かっては言わないでしょう。それは、「ご無事に」との意味の違いを理解して使っているということなのかもしれません。
それでは、また。