敬語には機能があります。それは敬意を払う方向性を示すことです。
そしてその方向性は以下の3つです。
① 聞き手(読み手)
② 主体
③ 受け手
そしてそれぞれに、払う敬意の中身があります。
9月29日の回では、「受け手尊重」についてクイズ形式でお伝えしました。
営業マンと検討する側の関係であれば、それはビジネスマナーとして当然の姿勢ではないか。敬語など関係ないのではないかと思われた方もいらしたかもしれません。
いえいえ、そうではないんです。
敬意は、お客さまや取引先に対するときのみに限定するものではありません。
「受け手尊重」とは、ある行為を行う主体とその受け手がいたときに、主体(=〇〇するその人)側の責任を意識し強調することです。受け手側を表現しないことによって受け手を免責しているのです。
これは、単に人に優しく自分に厳しくということよりも、多様な人々がいる中で主体的に生きる姿勢を表すと読み解きたいところです。
ものごとは、うまく行かない前提で考える
文章を書けば評判になり、告白すれば愛されて、命令すれば誰もが従う、そんな人生を歩んでいる人に受け手尊重は必要ありません。誰のことも気にせず、自分のしたいように振る舞えばよいのです。
しかし多くの人にとっては、そんなときのほうが少ないんじゃないでしょうか。
校正に校正を重ねても誰の目にも留まらず、好きな人には愛されず嫌いな人からは付きまとわれ、自分の部下は指示に従わないのに部長の指示に二つ返事で従う自分が情けない、そんなことばかりが起きます。ともすれば「なんで自分だけがこんな目に遭うんだ!」「理不尽だ!」と全てを投げ出したくなるかもしれません。
「理不尽だ!」と傷つき怒っていては、いつまでたってもそこから動けませんが、受け手尊重の考え方を使って責任は自分にあるけれどそれを評価するのは自分ではないと思ってみると、次へ進めるものです。
問題1を使って、その先を考えてみましょう。
問題1(再掲)
問題ー1 営業マンが主体=検討する側が受け手
明日は、初めて会うお客さまに自社商品をプレゼンします。営業マンの態度として、自身の責任を意識し、受け手を尊重している程度が高いのはどちらでしょう。
A:客が来てほしいって言うならとりあえず行ってみるか。パンフレットだけ持って行って商品の説明だけすればいいよな。
B:お客さまの会社情報からして、当社を選んだ理由はなんだろうか。明日聞かれるとしたらどんなことだろうか。質問されそうなことはなるべく準備して、少しでもお客さまに信頼されるように頑張ろう。
受け手尊重のない営業マンA
問題1の営業マンAが客先からの質問に何も答えられず、次のアポも取れずに帰社したとしたら、こう考えるかもしれません。
あんなこと突然聞かれて、分かるわけないじゃん。
だったら先に質問事項を書いてよこせよ。
あぁ、つまんねえ客に当って無駄な時間を使ったな。
自分はできなくて当然だと免責し、相手に変化を求めています。これは、言ってみれば自分尊重です。
受け手尊重で考える営業マンB
一方、営業マンBが客先からの質問に何も答えられず、次のアポも取れずに帰社したとしたら、こう考えるかもしれません。
自分の想定が的外れだった。そういうところをお客さまは気にされるのか。
よし、次からはその視点からの質問にも対応できるよう準備しよう。
自分の思う通りになるなんて最初から考えない。受け手をありのまま受け入れ、その受け手のために自分を変えていく。その主体的で能動的な姿勢が受け手尊重です。
次週は、受け手尊重の粋を改めてまとめたいと思います。
それでは、また。